第2話―—冒険の日

 「お茶持った?お弁当持った?それと、ハンカチにティッシュ、消毒なんかもあったほうがいいわね。あとは、怪我した時の絆創膏。消毒してからつけるのよ。ええと、あと何がいるかしら」

「ママ、大丈夫だよ。僕、もうお兄さんだもん」

「本当に?ひとりで行ける?森は素敵なところだけど怖いところでもあるのよ」

そう言うと、お母さんは心配そうな顔をしました。

「大丈夫だよ!行ってきます!」

僕はとびきりの元気な声で言いました。お母さんの顔にも笑顔が戻ってきたみたいです。

「いってらっしゃい、ドリスちゃん」

 みんなには言ってなかったけれど、ドリスというのは僕の名前です。お母さんは僕のことをあったかい声で「ドリスちゃん」と呼びます。


 はちみつの森はくまくま島の左耳部分にあって、はちみつの壺のような形をしています。くまくま島というのは、地球から遠くはなれた星にあるくまが住む島で、くまの顔のような形をしています。その左耳の部分にあるのがはちみつの森です。僕のおうちもはちみつの森の中にあるんだけど、お母さんによるとやっぱりあんこくまおうが住む宮殿とは「わけがちがう」そうです。わけ、というのが何かよく分からないけれど、お母さんのいうことにまちがいはないと思います。

 おうちの扉を出て、左に行くと小学校です。小学校にはラルミちゃんというおともだちがいます。ラルミちゃんは白くてかわいいです。好きな食べ物は、いちごとにんげだそうです。でもそれは冗談だそうです。にんげってなんだろう。ラルミちゃんはたまにおかしなことを言います。

 おうちの扉を右に行くと、暗い森につながっています。僕は今までそっち側には行ったことがなかったけれど今日は行きます。行くんです。僕は勇気を出して、一歩目をふみ出しました。

 はじめの方はそんなに暗くなかったけれど、だんだん暗くなっていきます。どこかで鳥がぴよぴよと鳴いています。くまくま島はくまがたくさん住んでいますが、ほかの動物もたくさんいるんです。がさがさという音もします。きっと、鹿さんや猪さんです。

「おおきなくりの木の下で あなたとわたし なかよくあそびましょ おおきなくりの木の下で」

 どこからか歌が聞こえます。不思議です。なんだかかわいい声です。あんこくまおうの声だったら僕はびっくりして、この間のとなりのとなりのおうちのおばあちゃんみたいに、腰を抜かすと思います。

 なんだか声が近づいてきている気がします。ちょっとこわい、いやこわくないです。暗い森だけど、葉っぱと葉っぱのすきまから光がさしこんでいてきれいです。前にお父さんが「こもれび」というのだと教えてくれました。

 でも、やっぱりこわいです。さっきのはうそでした。僕は大きな葉っぱの下に隠れていることにしました。

「おおきなくりの木の下で あなたとわたし なかよくあそびましょ おおきなくりの木の下で ラールラルッ」

「あれっ、ラルミちゃん?」

 ラルミちゃんには、時々「ラールラルッ」と言ってしまうくせがあるので、すぐに分かります。

「うん、ラル。ってドリス!なんでこんなとこにいるの?」

「冒険だよ、僕、あんこくまおうさんのとこに行くんだ。ラルミちゃんは?」

 冒険、と言うとき、ちょっとかっこつけてしまったかもしれません。

「ラルはね、きいちご食べに来てた。いっぱいあっておいしかった」

 こもれびのところでよく見ると、口のまわりが、きいちごで真っ赤です。

「ラルミちゃん、口、真っ赤だよ」

「ほんとだ、ハンカチが赤くなった。ドリス、ラルも付いて行っていい?」

 僕たちは、一緒に冒険することになりました。


「ピピピピピピ。ピピピピピピ。侵入者発見、侵入者発見。南東800m付近に、二人組の子ども。こちらへ向かってきております。どうしますか?」

「ふん、子供の遊びに付き合っている暇はない。放っておけ。第一分界を抜けれたら、考えものだがな」




つづく




-------------------------

*合わせてお読みください*


本作品の近況ノート

https://kakuyomu.jp/users/troubadour_/news/16816927861389041417

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あんこくまおう物語 女生徒 @troubadour_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ