リバース↑↓俺の彼女も二つ持つ

花月夜れん

ぺっとでご主人様

 今日俺は相棒を見つけた。


「それじゃあ皆、また明日」


 ふぅと息を吐く。12時の鐘の音がなる。俺はコレからシンデレラになるんだ。

 俺は全部すべてを切り替えて行く。


「やっほー、今日のご主人様はだれかなぁー?」


 夜12時までは俺様ユーTuber。そして今からは、ご主人様と一緒ブイTuber小悪魔えむ。

 ちなみに小悪魔設定の首輪付き女子だ。頭には角がある。羽はない。ハートの尻尾はある。衣裳は色々見えてる。そんなデザイン。


「あたし、今日は罵られたいの。誰かかまってぇぇぇ」


 我ながらヤバい性癖だと思ってる。エスな俺とエムな俺がいつもいて、発散させるのに苦労していた。

 ユーTuberが流行りだし、俺はエスな部分をさらけだした。こっちは数人の知り合いが知っている。

 ただこれでは、エムな俺を解消させることが出来ない。

 そして、今ブイTuberなるものが流行りだし俺は救われた!! もう一人の秘密の俺を作り出すことに成功したのだ。エムな俺をさらけ出す場を!


「ん、なんかねむ……」


 連日しているせいか眠たくて仕方がない。

 画面が揺れて見える。あ、これ、あっー。


「はっ!!!!」


 画面のコメントが「寝落ちー?」「大丈夫?」と書かれている。

 俺はというと、文字入力ああああああああああああああああああああをしていた。

 急いで全部消して、返事をする。メッセージアプリにも返信をしておく。


『寝落ち復帰しました』


 よし。

 全部に返事をして違和感を感じる。あれ?

 これ小悪魔チャンネルじゃなくね? あれ?

 一人、リアル知り合いグループからの寝落ち確認だった。

 相手はユーチューブの方でコラボしたことある、中学から仲良くなった同級生「永瀬仁美ながせひとみ」。

 え、こっちのことは誰にも知られていないはず。え、どういうことだ?


 ◇


 永瀬とは高校でも同じ学校でよく顔を合わせる。彼女はコスプレイヤーで可愛いアニメキャラの女の子をよくやっている。

 俺の兄の彼女だった。

 交通事故で兄が亡くなるまでは。

 連絡先、消してなかったな。ただ、向こうもそのままだったのかな。

 って、いや? ユーの方は顔出ししてるけど、ブイは顔出ししてないぞ?


伸司しんじ


 久しぶりに聞いた声。永瀬の少し低い、落ち着いた声。


「永瀬さん」


 何の用だろう。俺とは兄以外接点のなかった彼女が高校で話しかけてくる。


「ねぇ、えむちゃんって君なの?」

「……」


 耳元でささやかれ俺の背中を何かが走る。


「否定しないんだ。そっかそっか」

「何ですか?」

「肇と一緒だ」

「は?」


 ふふふと笑う永瀬は兄にしていたように俺にくっついてきた。


「ね、今日うちにこない?」

「何で」

「ばらしてもいいのかなぁ。もう一つの顔」


 そう言われて、俺は彼女に従った。


 ◇


 彼女は俺の求めていたものを全部持っていた。


「上手、上手。そう、そこだよ。えらいえらい」

「ふっ、もう……」


 終わった後、喉の乾きを感じた俺は彼女の持ってきたお茶を飲む。


「肇君…、肇君……」


 背中にすがりつく彼女が呼ぶのは俺の名前じゃない。


「仁美、俺のものになれ」


 今度は俺の番だ。もう一人の俺は先ほどと変わっている彼女に命令する。


「……はい」


 やっかいなエスの俺とエムな俺。彼女もまたエムとエスの顔を持っているようだ。

 俺は兄ではない。だけど、彼女は兄を探してる。

 同じだったんだ。

 知りたくなかった兄の顔。

 忘れさせられるだろうか。


 ◇


「二つあると大変じゃない?」

「別に、今は相棒がいるから。仁美は?」


 俺は彼女に聞いてしまう。


「ご主人様とペット。両方いてくれるっていいよね」


 俺じゃなくてもいい人が現れたらそっちに行ってしまうのかな。でも今は――。


「小悪魔えむと大天使エースの配信部屋にようこそ」


 楽しいから、それでいいか。

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