二刀流の魔導士

嬾隗

遺書



 これは、遺書であり、俺の人生を綴ったものだ。これを読んだ者は、◯◯大陸の◯◯孤児院に渡してほしい。きっと受け入れてくれるはずだ。


 俺は、孤児だった。物心付いたときには◯◯孤児院にいて、親の顔を見たことがなかった。その孤児院は教会が運営していて、シスターが面倒を見てくれていた。


 アイリスは同い年で、俺とよく遊ぶ数少ない女の子だった。アイリスはとても活発で、チャンバラごっこばかりしていた。お互いに、淡い気持ちを持っていることを理解していた。


 十歳になったとき、職能を授けられる儀式に出席させられる。そして、授けられた職能に応じて十五歳で成人したときに就ける職業が変わる。俺は『魔導士』、アイリスは『剣士』であった。女剣士は珍しくなく、冒険者になったり、領主の屋敷に仕えることができる。俺たちは冒険者になる予定だった。


 十四歳のとき、アイリスは領主の館にスカウトされた。身分上、断ることはできず、俺は冒険者、アイリスは女騎士になることが決定した。魔法の練習の合間に、未だアイリスとチャンバラごっこをしていて、剣を使える魔導士になっていた俺は、冒険者になって大金を稼ぎ、アイリスを買おう、なんて甘い考えをしていた。


 十五歳になり、成人した。俺は冒険者になり、街を離れた。アイリスは館に就職した。今度会うときは結婚するときだ、と約束して。


 数年後、古龍種の討伐に成功し、組んでいたパーティーに話をして故郷へ戻ると、シスターからアイリスが亡くなったことを告げられた。同じ孤児院の姉貴分の女剣士も行った領主の館は、非人道的な人体実験をしており、材料として使われたらしい。その時には既に領主は処刑されており、やるせない感情に駆られ、また冒険に出た。アイリスの愛刀を持って。


 ある日、魔王という存在が出現した。調べてみると、あの憎き領主の実験結果を基に造られたらしい。『二刀流の魔導士』として名が知れ渡っていた俺は、すぐに苦労することなく魔王を潰した。


 死の間際の魔王から呪いを受けた。不老不死の呪いであった。解除することはできなかった。その後も冒険を続け、何人も友人を見送った。


 ある時、冒険者を辞めてこの大陸に隠居した。村の人々は優しかった。また多くの人を見送った。


 何千年と時が過ぎた頃、村の女の子にこの洞窟に連れ込まれ、刃物で刺された。不思議なことに、その女の子は泣き笑いをしていた。魔法で女の子を確認すると、女の子の魂は、アイリスと同じであった。刺されたことで魔王の呪いが解呪され、不老不死でなくなり、普通に生きられるようになっていた。


 その後、元アイリスは、魂の奥に眠っていた記憶を呼び覚ました。そして、結婚の約束を果たすことができた。


 元アイリスと愛をはぐくむことができ、思い残すことは俺たち二人の剣だけだ。これは、世界を救う人にこそ託すべきだ。この遺書もどきと共に◯◯孤児院に渡してほしい。剣には封印を施してある。封印を解くカギは、愛だ。


 長くなったが、見知らぬ人よ、よろしく頼む。



     シリウス


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二刀流の魔導士 嬾隗 @genm9610

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