第4話 告白
高校2年生になってクラス替えがあった。わたしに好意を持ってくれた同じクラスの男の子が付き合わないかと言ってくれた。いつもオシャレでカッコよかったけど、シャイで口数は少ない彼だった。わたしは嫌いではなかったが好きと思ったことはなかった。女友達に相談をすると、付き合うから始まって好きな気持ちが生まれることもあるかもしれないとのアドバイスに背中を押され、付き合うことにしてみた。
しかし、うまくはいかなかった。少しずつ分かり合って近づいて2人の関係を作っていくことが面倒に感じてしまったのだ。全くダメなわたしである。お互いの家の方向が全然違って一緒には帰れないし、恥ずかしさからか学校で一緒に過ごすこともなかったり、休みの日や学校帰りに、たまにデートしてもなんだか距離感がぎこちなくて疲れたりした。好きを育てる気持ちより、面倒が勝ってしまい、早々にもうやめたいと思ってしまった。
女友達には、「最初はそんなもんじゃない?少しずつ近づいていくのが嬉しかったり楽しかったり、それが恋愛だったりもするじゃない?」と言われた。もう少し長く一緒にいれば愛情とかが出てくるかもとも言われたけど、わたしには、愛情どころか、好きって気持ちすらもよくわからなかった。
周りの女友達は、当時、恋愛心も順調に年相応に成長していて、未熟なわたしに、たくさんいいことを言ってくれていたなと、今になって思う。当時の未熟なわたしには、そのたくさんの言葉が、心からは、わかっていなかったと思う。
そのクラスメイトと結局別れ、自分の恋愛偏差値の低さを実感し落ち込んでいた。
そんなある日、たまたま、大杉くんと帰りが一緒になった。高2のその頃には、大杉くんとは、だいぶ話ができるようになっていて、他愛もない話をして笑いながら帰り道を歩いた。「好き」がわからなくなっているわたしが、笑う彼の横顔を見ると、心の奥のどこかで、ときめきが見え隠れする。過去に彼を好きだった記憶がそうさせるのか、今の彼にときめいているのか、どっちなのかわからなかった。
頭の隅でそんなことを考えながら、大杉くんと並んで歩いていると、会話に少しの間ができた。するとその間を埋めるように、近くの線路を電車が通り過ぎた。田舎の単線電車で車両も少なく、その音はすぐに過ぎ去った。再び静かになると不意に彼が言った。
「あのさぁ、僕と付き合わない?」と。
ずっとずっと想ってきた人に告白された。
今考えたら、泣きそうなほどドキドキする。
でも、この時のわたしは、嬉しさよりも何よりも、恋に対する自分への不安が大きすぎて、ずっと好きだったことさえも言えず、「今、彼と別れたばかりだから、付き合う気分になれなくて、ごめん」と断った。
大杉くんは前を向いたまま、そっかと言って、またわたしと並んで歩き、少し俯いたわたしに、あの課題やった?と普段通りに話しかけてくれた。ほんの少しだけ前を歩く彼の顔をチラッと見上げると、わたしの好きな、穏やかに笑う横顔だった。
これでわたしの初恋は終わったんだと、ダメな自分に深く落ち込んだ。
しかし同時に、初恋は初恋のまま、下手に失わずに済んだという安堵のような気持ちもあった。
それからすぐに、受験勉強の時期になり、恋だのなんだの考える暇がなくなり、一応わたしも勉強に励んだ。
本屋で、自分の希望学部の参考書を探していると、大杉くんが同じ本屋に現れた。
おお、と相変わらずの穏やかな笑顔で声をかけてくれた大杉くん。大杉くんも参考書を探しているようだ。そして、わたしが見ている棚と同じ辺りに目をやっている。どの学部を受けるのかという話になると、同じ学部を受けることがわかった。そんなに男子の多い学部ではなかったので、少し驚いた。そして、少し嬉しかった。
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