最終話
これが、本当の"10代の墓場"だ。
暗転。
『Teen Grave』最終幕
僕の20歳ももう終わりを迎えようとしている頃だ。余命3ヶ月の20歳。
思えば今まで色々あったもんだ。
虐待。急性アルコール中毒。飛び降り。自殺。施設暮らし、そして家出に万引き。
怒鳴り響く母の声。死ねばいい、お前なんかいなくなればいい、知的障害者、なんで生まれてきたんだ。今となってはもう懐かしいものだ。しかし、到底思い出したくはない。
飛び降りる瞬間、僕は"無"だった。
なにもなかった。ただ、ああやっと楽になれるんだなと呆然と考えていた。
救急車の中、スマホを片手に僕は、なんだ自殺ってこんなもんか。と考えていた。
僕はいまだに、ヒナコちゃんを許せちゃいない。あの子は僕より上の存在だった。上から僕を見下ろしていたのだ。だから、同じ立ち位置にいない君には僕の気持ちが何も理解できなかった。
だけどそれ以上に僕もたくさん罪を重ねてきたものだ。
ルイと出会ったのはちょうど今から一年前だったか。初めての恋人だった。初めて愛を知れて嬉しかった。その愛は浅く薄っぺらいものだったけれど、それでも初めての愛をくれた彼女には未だに感謝している。
万引きに初めて手を出したのはカイくんが僕の目の前で万引きしているのを見てのことだった。
あんなことはもう二度としない。そう思う。馬鹿なことをした。
でも、それもこれも、もう全部終わりだ。
変わろうとしている。いや、きっと変わったのだ。
僕の人生に、平穏な日々がやっと初めて訪れた。
「十也、お前も大人になったもんだよな」
コイロが言う。
「そうかな。まだまだ未熟だし、子供だけどなぁ」
「そんな事ないさ、だってほら」
お前の隣にはいつも誰がいる?
そうだね、いつも██くんがいる。
「お前に本当に必要だったのはやはり薬でも煙草でも酒でもなかったみたいだな」
「そう、愛」
カプが言う。
「愛がずっと欲しかったんだよね、でもそれが君にはなかった。十也、今君の胸にあるのは愛だよ」
「え?」
「君は愛されたかったんじゃない、人を心から深く愛したかったんだよ〜。今君の心はね、愛で満たされてるの。」
そうか。そうだったのか。
だからずっと、僕の心は空っぽだったんだ。
「よかったね、十也。だからもう未練はないよね?」
「うん。ないな」
「じゃあ俺たちの出番もこれまでってところか」
「消えちゃうんだね。コイロ、カプ」
「思い出した頃に帰ってくるさ、良い形でな。そうだな…籍でも入れたら俺達もまた呼んでくれよ、祝うぜ」
「うぇでぃーんぐ、待ってるよ〜」
「あはは、なんだかそんな未来のことまで楽しみに出来るのが嬉しいや。そうするよ」
カプの長い黒髪を撫でる。相変わらず煙草をぷかぷかと吸っているコイロと、握手を交わした。
「じゃあ、ありがとう」
そう言い終える頃には、いつの間にかコイロとカプの姿は見えなくなっていた。
僕は変わったんだと思う。
この1年間、10代の思い出たちに引きずられながらも。
フラッシュバックもなくなった。
そもそもコイロとカプは、とうに僕の中には居なかったじゃないか。
██くんと出会って世界が変わった。
リストカットやオーバードーズをしない自分。
自殺を図らない自分。
君が作ってくれた、私だ。
私は、██くんと出会えて本当に感謝している。
日々の何気ない会話も、笑って過ごせることも、全部に感謝している。君ほど私の恩人と言える人はいないだろう。
君のおかげで、
いや、君のために負の連鎖を断ち切ったんだ。
私はこれからも前を向いて歩いていく。君と歩める将来のために。
だから、ありがとう。僕の世代はもう終わった。
「頑張ってね、さやな。」
さようなら、僕の10代。
fin.
Teen Grave 珈色かぷち @koirocaputi
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