第8話

不治の病?

懲りぬ心。治らぬ病気。緩和されない苦しみ。

暗転。





  『Teen Grave』8話




10代の墓場。最後の執筆からもう何ヶ月経っているだろうか。


「コイロ」


返事はない。


「カプ」


当然、返事は無かった。

いつからか僕の中に二人は居なくなっていた。

ただ一人の人格がそこに在るだけ。

中途半端にまとも。中途半端な普通。

そして中途半端に病気。


僕の人生こんなんでいいんだろうか。

中途半端に普通の恋愛して、中途半端に働いて、"普通"という名のレールを何とか踏み外さぬよう踏ん張って生きている。

大抵の人はこうなのだろう。

でも僕は中途半端じゃ嫌なんだ。

落ちるなら落ちるところまで落ちたいし、這い上がれるものなら完璧に理想的な最高潮の生活を送りたい。


「だから変われないんだよ」


「ああ久しぶりコイロ。まさか出てくるとは」

「久しぶりにお前が10代の墓場に来てくれて、気分が乗ったのでね」

「一人ぼっちは寂しいよ」

「お前にはもうパートナーが居るだろうが」

「パートナーって何?」

「アホか」


頭を小突かれる。僕も自分をアホだと思う。


「お前はどこまで人間不信を貫く気だ」

「僕だってこうしたくてこうしているわけじゃあない。好きな人と結ばれたのに何一つ変われない自分に嫌気さしてるよ」


「恋ってきっとそんなもんなんだね〜」

次いでカプが登場する。まさか3人全員が揃うとは。


「カプね、ずっと夢見てたの。白馬の王子様がいつか来てくれるって。でも王子様なんてこの世に居ないのかもしれないね」

「そうだよ。僕がこの身をもって経験した。恋人がいるからって常に幸せでドーパミン出まくりなんてことは有り得ない」

「愛着障害なのに愛着を得てしても尚、治らない病気。へんなの」

「だからこいつは仮病なんだろ」

「仮病って言うな」


「なぁ十也、またヤク漬けに戻って腕切り刻む生活に戻っちまえよ。恋人も心配してくれるだろうよ」

一理、ある。

落ちぶれて落ちるとこまで落ちて、障害者として生きるのが一番僕にはお似合いなのかもしれない。


「でもそれじゃダメだよね。変わるって決めたんだもの。健常者として普通に生きたいって」

それも、一理ある。

普通というものが何かはわからないし、人生においてきっと永遠の謎になるかもしれないけれど、一般的に言う健康的な生活は送りたい。


どっちがいいのか僕には分からない。

いや、違った。

選択権なんて僕には無かった。


どちらも選ぶことが出来ない半端者なのだから。

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