第6話

オリンピック。スポーツ。全く興味が無いわけではない。

競技自体には関心が無くとも、選手そのものには興味深いものがある。

有名な野球選手の監督なんか見てると凄いなと純粋に思うし、日本人かどうかに関わらずともメダルを掲げて笑顔を見せる選手なんかを見てると微笑ましいものだ。



暗転。




  『Teen Grave』6話



「良いな、ああいう人」

「何だよ、捻くれてるくせに素直な視点で見れるんだな」


意外そうに、自分によく似た二重の眼がこちらを向く。

僕自身、自分の顔は嫌いじゃないけれど、まるで鏡を見ているようで不思議な感覚に陥る。


「今まで僕の周りにはすごい大人とか、良い大人ばかりいた。その人たちの事を思うと自分もああなりたいって、頑張りたいって思えるんだ」

「そのためには病魔の数を減らしてかなきゃいけないんだけどな」


だけれど煙草の本数は増える一方。薬も増える。

呂律も回らなくなっていく。


「僕は出来損ないのクズだ」

「いきなりなんだ、自己嫌悪か」

「学校をやめた」


学校を、辞めた。

薬の副作用で勉強も出来なくなっていた。

成績Aも取った事があった僕は勉強に自信を無くした。


大好きな歌も、声が出なくなっていた。

好きだった自分の歌声が嫌いになった。


歩くのが好きだった僕が、外に出るだけで眩暈が起きるようになっていた。

外に出るのが嫌になった。


「反抗?非行?もうそれどころじゃないよ」

「それは、大人になったとは言えないな」


"悪化"。

病の進行。


「だから、あんな眩しくて輝かしい大人のようにはなれない」

「今は、な」

「ずっとかもしれない」

「そんなのわかんねえだろうが」

「無理だ」


カッターナイフ。刺すなら刺せばいい。

僕はお前にそれを向けられても怯まない。


「無理、なんだよ。」



病魔とは、僕自身なのかもしれない。

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