第2話

暗転。




  『Teen Grave』2話




むかしむかし。

いや、つい最近のことでした。


とあるところに親にも恵まれず、貧しい少女がいました、

死ぬ勇気もない、かといって生きる気力もない。

そんな少女の前にある日、手を差し伸べてくれた王子様プリンセスが現れました。

初めて真実の愛を知った少女は、なみだが止まりません。

少女はお姫様になり、王子と共にお城を立ててしあわせに暮らしましたとさ。


「なーんてお話、どう思う」

「何とも」


ぶらん、ぶらんとダボついたパーカーの袖を楽しげに動かしては、よくわからない御伽噺を語り掛ける少女は、綺麗な黒髪にこれまた派手な赤いインナーカラーが混じっている。

彼女はカプ・チノラッテ。愛を追求し続ける"女の子"。

対して僕は、ご機嫌な彼女につまらなさそうに相槌を打つ。いつもそうだ。


「フィクション8割、ってとこだな」

「うるさいなあ。ていうかいっつもいつも煙たいんだよお前」

「飴でも舐めてろってか?薬中ちゃん」


皮肉めいた笑みを浮かべるが、こいつの言うことは割と正しい。

こいつはニコチン依存症。僕は薬物依存症。


そして、彼女は恋愛依存症だった。


「今日はどんな髪型にしようかな~。綺麗に編み込んで、シュシュもつけて」

「君のそれには何の意味があるのか理解できない。相手も居ないのに」


「待ってるの」

王子様お姫様を、待ってるの。それが彼女の口癖だった。


「爪も綺麗に伸ばして、髪の毛のケアだって怠らない」

「それで君が幸せならいいけど」


「俺はそれを幸せとは呼ばないな」


最もだ。


この世界では珍しく明るい声色をした彼女の眼はいつも虚ろで、それでいて時々どこを見ているのかよくわからない時があった。


「愛を手に入れるための花嫁修業ってやつだよ~?」

「それでお前の言う王子様お姫様ってやつは何十年後に来てくれるんだろうな」


「それでもいいの。」


えくぼを作って、笑っては。

また機嫌がよさそうに身支度を進める。



「ねえ、十也はさ」

「ん」

「本当の愛ってなんだと思う」


ふいに、こちらを真っすぐと見つめてくる。



「一緒にいると甘くて満たされる感じがして、」

「苦い部分もすべてを受け入れられて」

「どんなところも愛することが出来て、、」

「絶対に別たれない物」


「それってどこにあるんだろうね?」

「わかんないけど、君の中にもうあるんじゃないのかな」

「私の中?」



だって、

聞くまでもなくよくわかってんじゃん。

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