第1話
時は2022年。
ひとり、朝のニュースが流れるテレビをぼうっと見ている。
世の中は今、成人式やら親への感謝やらで盛り上がりきっていた。
馬鹿らしい。
僕の10代の終わりというものは散々なものだった。
ケーキもない、プレゼントもない、祝いの言葉も、何にもない。
「散々だな、クソが」
20歳成人男性、枕をぶん投げる。大人になったっていうのにまだ反抗期でちゅか?
「うるせ」
ーーうるさいじゃあないんだよ、十也。
その声を機にふと、目を瞑る。
暗転。
僕は365日ここで、"自分"と闘っている。
『Teen Grave』1話
「調子はどうだい」
金髪だか黒髪だかわからん野郎が煙を吐きながらふんぞり返っている。相変わらずムカつく。
「おかげさまで」
「というと」
「どうせ今から"始まる"んだろ。わかるさ
こいつはコイロ・コーフィマシン。僕を更生させる立ち位置にあるが、結局こいつも僕の"精神世界"の一人に過ぎないから、頼りない。
この世界が形成され始めたのは10代最後を目前とした冬季の始まりだった。
僕はいわゆる不良だ。そして重度のメンヘラというやつだ。
人格も精神もぶっ壊れている。知的障害は無い。
自殺未遂も何度もした。家出もやった。色々やってきてる。
そんな僕を、俺を変えたくて、この世界を作った。
病魔と闘うために。
「ほらみろ、さっそく異形のお前の精神の塊だ。」
「わかってるよ、僕が頭おかしい非行少年ってことくらい
「だからもう"少年"なんかじゃねーっつーの。ただの犯罪者さ」
うるさい。うるさい!メガホンを構える。
その怒りの矛先は金髪ヤローに向けたいところだが、思いっきり僕は、
「うるさい!!僕はまだ子供でいたい、10代でいたいんだよ!!!!」
異形の塊はユラユラと揺らめく。精神攻撃は相当効いたようだ。
ああ、この異形、よく見たら錠剤のシートに似てるなあ。
「デパス」
「は?」
くすり。
くすりくすりくすりくすりくすりくすりくすり。
「デパスジアゼパムセルトラリンエビリファイコントミンブロンブロンエスエス」
「憑りつかれるな、やられんぞ!」
「だってあれは薬で」
「違うだろ、よく見ろ。用法容量守れって何回言えばわかる」
「……」
精神が削られていく。くすりがほしい。ただひたすらに。
辛い気持ちを薬で紛らわせる方法は。
薬。
薬?
「薬無しで生きれるようになりたい」
「そうだ、それがお前の本音」
「健常者に、なりたい」
「ぶつけろ。思いをぶつけてやれ」
むせ込んでしまいそうな程に息を吸い込む。
「「お前らなんかに負けねえ!!環境も境遇も全部ぶち壊してやる!!」」
ぐしゃり。ぱき。り。
それは途端に揺らめいて消えていった。
「…やれやれ」
「でも僕、最近は用法容量守れてるんだよ」
「それは管理してくれる人間がいるからだろ?」
「う」
こうしているうちにも何本と吸い続けていたらしい火は、ジリ、と消え失せた。
この世界での僕たちの葛藤は、しばらく続きそうだ。
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