二つの権能を治め(させられ)ている幼き女神
イノナかノかワズ
二つの権能を治め(させられ)ている幼き女神
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どんどんと教え寄せる精霊たち。お前たちだって、天と海。どちらかに関わる権能をもっておるのだから、小さな問題はお前たちがやってくれ! と叫びたくなるが、グッとこらえる。
「はぁ」
執務室が煩い。美しきも幼い容貌をした
蒼穹の瞳を一度伏せた
「東に関してはシシオノツチとツムアワレチに、西はコモアメノツチとウズメキアチ、嵐はクモアゲノアメツチとクモコネノラクツチに尋ねよ! その他はミズノクサウミノカチとカゼノヤマオロカチのところへいけぃ! あと、誰か手が空いているものがおれば、あのあほんだらなテンテンテンバシラノラクサチの小僧をひっとらえよ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
しゃんと鈴を鳴らしたように可愛らしい声音には似合わないほどの覇気が執務室に響き渡ると、精霊たちが一目散に散っていく。
静寂に包まれる執務室。
「ああ、もう! 父上も母上も千年近くどこに行っていらっしゃるのか! 異界に旅行などと仰っておったが、普通旅行は二百年で十分であろう! 千年も私に二つの管理を任せるなど!」
天と海を治める
彼女は千年前までは雲を治めていた。しかし、父と母が異世界に旅行に行くため、彼女に自分が治めていた天と海を任せたのだ。
通常、神々が二つを治めることなどない。まして、天と海は、この世の天候を司る最大の権能。いわば、春と夏、秋と冬、などといった二つを管理するに等しいほどに難しい。
そしてさらに天と海の性質は真逆。
天は静。優しく温かく特に雨という恵みを与える静かな権能。
対して海は動。強く荒れ、この世のあらゆる水を操る猛々しい権能。
全くもって真逆の性質の権能を管理するなど、普通の神ではできない。治めようとした瞬間に体が神性の矛盾で崩れさり、消し飛ぶだろう。
だが、その二つの権能の間に生まれた
実際に治められるかどうかはおいておくとして。
忙しいのだ。多忙に多忙を極め、彼女はここ五百年近く一睡もしていないのだ。疲れていているのだ。
だから決壊した。
「怨むぞ。怨むぞ父上っ、母上っ!」
ドスの効いた恐ろしい声が執務室に響いた。もし周りに神がいたのであれば、その執務室から恐ろしいまでの荒魂の気が放たれているのが分かるだろう。地上を見れば、彼女の怨念に反応して幾つかの邪悪な国が大嵐か津波かで消し飛んでいるだろう。
些細なことである。
「私はまだ六千歳だぞ! 知っておるか、巷ではタピカラーとやらが流行っていて若い女神たちには人気なのだぞ! タピカラーの企画書も私に届いておるに私は一口も口にしたことがないどころか、見たこともないのだ! 見る暇も与えられずに仕事をしてるのだぞ!
皆が読んでる異界ファッション雑誌、
神界共通金は巨万の富をほどあるのに、休みがないのだ! 休みを取ろうにも私の代替をできるものがいないなど!」
どんどんと執務机を叩く。天井に届くまで伸びていた書類の束がバラバラと崩れて
ちなみに巷で流行っているのはタピカラーではなく、タピオカである。しかもその流行りはとっくの昔に終わった。丁度三百年前だろうか。
当時の技術では作るのに二週間かかるのだ。なのに高々味のしない団子にそんなに時間をかけるなど馬鹿の所業である。貴族の間で道楽として流行っていたそれは、経済が傾きだした途端廃れた。あっさりと廃れた。
まぁ忙しすぎてそんなことを知る由もない
「どうせ、どうせ、私なんてただの機械なんだ! 私の
途端、執務室に強大な雨雲が発生し、どこからともなく海水が流れ込んだかと思うと荒れに荒れる。
雷が落ち、嵐が発生し、海水が猛り渦潮を作り出す。
が、
「ちょ、何よこれ!」
と、そんな様子に驚愕したのは
文字通りの血眼と思ってしまうほどの鮮血の瞳をきょろきょろと動かしながら、その妙齢で美しい顔を歪めている。
そして見つけた。
「
「……ケッ、ボンボンお嬢様ですか。私を機械っていったお嬢様ですか」
「その件は本当にごめんって。てか、アンタの口調そんな感じだったけ?」
「うるさいです。私は閉じこもるんです。ストライキです。一人だけの労働組合です。ストストストストストストストストストストストストストストストストストストストストストストストストストっ!」
「ひぃ!」
荒れた海の上で体育座りでブツブツと怨念をまき散らす
と、
「カネがあればなんでもできるって、アレは嘘。カネならある。カネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネカネ。けど何もできない。あ……あ……あ……あ……あ……あ……あ……あ……あ……あ……あ……あ……あ……あ……」
「ヒィィィィ!」
膝を押せていた両手から金貨がザックザックとあふれ出る。
すると、荒れていた海が静かになり、代わりに猛々しい炎が巻きあがる。
「聞きなさい
「………………………………え」
「う………………嘘だ! 嘘だーー!」
「ホントよ。帰ってきたのよ!」
叫んだ
「………………どう………………して?」
彼女だって何度も頼んだ。旅行にはっちゃけているのか彼女では両親と連絡が取れなかったため、あらゆる神々の母であり繋がりを持っている
だが、
なのに、何で遣いを出した? 仕事自体は回っていたし、自分がストライキをしたところで、やはり神性の問題で機械のごとく勝手に体が仕事に取り組む。歯車は問題なく回るはずだ。
そんな疑問を感じ取ったのだろう。
「お詫びよ。いくらアンタが遊んでくれなかったとはいえ、書類決済気はホント言い過ぎたわ。だから、お詫び。私、最優秀高校文学賞を受賞したのよ。その表彰式の時に
「……あ……あ……あ……あ……あ……あっ!」
「私、好きな服を着る時間ができるの!?」
「そうよ」
「ずっと食べたいと思っていた田道間守命のショートケーキが食べられるの!?」
「ええ」
「タピカラーを飲むことができるの!?」
「タピカラー? なに……ああ、タピオカかしら。あれ、もうとっくのとうに廃れたわよ」
「え……」
「ありがと、ありがと、ひーちゃん! ありがとひーちゃん!!」
「お詫びって言ったでしょ。けど、まぁ、これからはいっぱい遊びましょ」
「うん!」
こうして神々の中でも非常に稀な二つの権能を治めていた二刀流の幼き女神の苦難が終わった。
そしてあまりに余った金を使いながら、仕事で失った日々を取り戻すために目一杯遊び倒したという。
二つの権能を治め(させられ)ている幼き女神 イノナかノかワズ @1833453
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