3、
いつものように部屋を真っ暗にして目を開いて壁の影を眺めていると、悪魔が声をかけてきた。
〈よう。暇そうだな〉
悪魔はそう言った。
〈突然だがおまえは呪われているよ。あいつに。覚えているだろう? あいつだよ。あいつに人生を台なしにされる呪いがかかっているよ。おまえが18のころから寝たきりなのもあいつのせい。おまえが18のころからだるくてベッドから起き上がれないのもあいつのせい。知らなかったのか? 〉
あいつってだれ?
あたしが心の中で問うと悪魔は鼻で笑った。
〈知ってるくせに。おまえが不幸なのも全部あいつのせいなんだよ。生まれたときからおまえはあいつに喧嘩を売られてんの。まだわからないのか?〉
だとしたら何。
悪魔は心底馬鹿にしたようにけたたましく笑い出した。
〈惨めだね? 仕返ししてやりたいとか思わないのかね? ぬるいよなおまえは昔からホント〉
だってあいつは。
それにあたしは。
言いたいことがあってもちゃんと言えなくてもどかしかった。
ベッドのなかで寝返りを打つ。この部屋にはカレンダーも時計もない。そういうものにはあたしは縛られない。
〈**はね、おまえが嫌いなの。おまえをこの世から消そうとしているの。まだわからないのか? おまえが**に従わないからこんなことになるの。わかったかな〉
あたしはだれにも跪かない。屈さない。頭を垂れて懇願しない。そういう人間なの。
〈社会不適応者ってよく言われない? おまえは誇り高いけどえらい代償を払わされてるよ。あいつに仕返ししたくなったらまた来てやるからいつでも呼べよ。おれの名は、サタンだ。おまえの家に代々とり憑いてる。おまえは、サタン憑きだよ〉
そう言ってサタンは消えた。
あたしだって好きでこうなったわけじゃないのに。
暗がりで歯噛みすると、嫌なぎりりとした音がした。
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