続 野次馬は暇な奴しかできない趣味

 彼らを追って行きついたのは街から少し離れた森の中。木々が生い茂っていて昼間なのにずいぶんと暗い。地面は苔むしていてジメジメしている。


 思いっきりコケるかと思った。尾行中にバレたらどうするんだって話。


「くっ……、今日はずいぶんと魔物が多いな」

 太くて大きい、ツタを剣で切り伏せながら歩くナミス。その顔には隠し切れない疲労が見て取れ、声にも若干の辛さがにじみ出ていた。


「そうね……、でも私はナミスがいるから安心だよ」

 そう言ってふふっと微笑むのはカレンだ。しかもナミスの腕に抱き着く。


 ぐぬぬっ、うらめs……もとい命をかけてる状況でそんなことに現を抜かすとはけしからん。まともにけしからん。


 ところで、なんで私が彼らの名前を知っているのかって? そ、れ、は、すごいスキル! ではなく、彼らがお互いに名前を連呼するからだ。あいつら付き合ってるらしいよ。


 冒険も仕事も恋愛の内ですか。はいはい、私は仕事に忙殺されそうで逃げてきたのにね。


 サボって追い出されただけって? うるせぇ! 忙殺されてたのは事実だからいいの。


 まったく、他の賢者の気が知れないわけ。年がら年中仕事してさ、休みはない。それでいて「数多の精霊の為に、賢者は報いる義務がある」だなんて抜かすんだよ。


 やりがい搾取だよね、これ。知らない人のためにプライベートを無にできるかよ。


「きゃあぁぁぁ!」

 耳をつんざくような鋭い悲鳴。私の怨嗟の思考はそれによって打ち消された。


「カレン! このっ」

 カレンが倒れて肩を抑えている。ナミスの目の前には魔物――アンデットだろうか? 疑問形になったのはあまり見ないタイプの魔物だったから。服は破けて肉はただれている。無事な肌も赤くはれていたりして。まるで聖水の風呂にアンデットをつからせた後みたいな……。


 うわきっも、悪魔の所業じゃん。私なら絶対やらない。できるけど。


「ハァッ!」

 ナミスが剣を上段から振り下ろす。重力で威力を増した剣は簡単にアンデットもどきの体を引き裂いた。しかし、ナミスが顔をゆがませながら後退する。


 なぜ? という疑問はすぐに解消した。私の鼻に不快な匂いが刺す。とてつもない腐臭だ。一瞬でここまで匂いがするなんて、目の前の彼らはもっとつらいだろう。


「なんでここにもこいつがいるんだ! 報告はなかったぞ……」

 おや、どうやらナミスはこの魔物を知っているらしい。


 えぇ、これが他にもいるのか。ちょっと、いやだいぶ嫌だな。


 私が嫌悪感に身を震わせていると、魔物が突如加速する。


 はやい!


「え? ぐあぁっ!」

 魔物がすごいスピードでナミスに突進。彼を紙きれのように吹っ飛ばす。


「えぇ……」

 思わずそう言ってしまう。アンデットにしては早すぎでしょ、あれ。反則だよ反則! そもそも、アンデットはナミスよりも大型だ。質量は武器になる。早さも相まってもはや兵器と言えるだろう。単純な武器ながらタチが悪いね。


「カ、カレン……」


「ナミス……」


「も、もうだめだ……僕たちは」


 はい?


「そ、そうね……。でも最後にあなたと居られて――」

 カレンが涙をこぼしだした。


 はい? はいぃ?


 なんという偶然、ナミスが吹っ飛ばされたのはカレンの真横だったのだ。いや、一回吹っ飛ばされただけぞ? カレンなんて肩を切られただけぞ?


 あいつら、完全に独自の世界に入り込んでいる。


「カレン……」


「ナミス……」


 二人が見つめ合って……。


 魔物が二人に近寄る。


「カレン、おれ……」


「……うん」

 カレンが頬を赤く染める。


 もどきはナミスに拳を振り上げて、


「カレンが好k……」


「や、やめろぉぉぉぉぅっ!!!」

 思わず魔法で生成した聖水を滝のようにぶつけてしまった。


「ウガァッ」

 魔物が初めて声を発した。そして聖水を警戒して後退。


 続けてずぶぬれになったナミスとカレンと私の目が合った。


「「「あっ」」」


 尾行、失敗!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る