野次馬は暇な奴しかできない趣味

「ふふ~んっ。なんだか気分がいいね!」

 甲をさんざんイジり倒して満足した私は通りを進む。


「やっぱうまいね、これ」

 抱えるくらい大きい焼き魚にかぶりつく。薄皮は生臭くなく、違和感なく食べられて良い。なお塩味も効いている。


 木ちゃんは特に私の食生活にうるさいので、食べ歩きも怒るかもしれない。しかし、構いはしない。


 美味しいならばいいのだ。目の前に本人がいなければまぁ、いいのだ。


 そう。まあいいかの精神。


 さぼり中に余計な思考なんてナンセンス。精神を健康に保てないもの。次は何をしようかなって考えるのが大事。優先事項、達成目標、最終結果、もとい焼肉定食。


「かぶり」

 焼き魚にかぶりつきながら次のことを考える。しばらくはこの街にいるつもりだから、ベースを作らないといけないよね。


 あたりを見回せばそこら中に出店やカフェ、露天が立ち並んでいるのが確認できた。商業地区なのかな。宿屋なんて一軒も見つからない。


 まぁ問題なし。最悪宿屋なんか行かないでも野宿できる。精霊賢者を舐めるでない。そもそも精霊は自然と調和してる生き物。問題はさほどない。


 でもやっぱ泥は嫌い。濡れたくない。宿屋は後でちゃんと探そう。


 寝床については方針決定。次はお金だよね。ジーナからぶんどってきたけど、無限にあるわけではない。


 定期的お金を入手する手段を得ないといけないかな。


「よし、今日はゴブリン討伐だ! 気合い入れていくぞ!」

 ふとそんな声が聞こえてきたので、声のする方を確認。

 

 声の主は男女の二人ペアのようだ。


 一人は戦士っぽい風貌で大剣を背負っている。さっき声を上げたのもこいつだろう。その声に「おぉ!」と言ってこぶしを振り上げたのは弓をもった女。弓を背負っている。


 あざといな。いけ好かん。思わず負の感情がわいてきた。


「あっ」

 負の感情が沸騰する直前、ある事を思い出した。


 手に魔力をまとわせて握りこむ。空間をつかむイメージだ。するとこぶし大くらいの大きさの異空間がでてくる。


 空間魔法、入れたいものを入れて入れて入れて保管できる魔法だ。実は高難易度魔法。これぞ精霊賢者の力。恐れ入ったか。


 てってれぇ~、冒険者カード。


 いつだったか、何十年まe……もとい何年前か人間の街に来た時に作ったカードだ。結局、緊急の仕事がやってきて私を殴るもんだから冒険者デビューはできなかった。


 せっかくだから冒険者になって資金を稼ぐのも悪くない。


「じゃあ冒険者ギルドにレッツゴー!」

 私はさっきの弓使いよろしくこぶしを振り上げた。


 


「え、あいつら外行くのか」

 冒険者の二人組が門を出て外に行くのを内側から見る私。思わず文句が口から出る。


 私は今、さっきの二人組を尾行中なのだ。ストーカーじゃないよ? 悪いことをするつもりもないからね。


 なぜ彼らを尾行しているのか、それには深いわけがある。


 ……冒険者ギルドの場所が分からん!


 だって初めてきた街だし、仕方ないじゃん。それでどうしようかなって考えたときに、彼らがいるじゃんってなったわけじゃん?


 あの二人がこれから冒険者ギルドまで行って、仕事を受けるんだなって思ったわけ。じゃあ彼らについていけば場所が分かるじゃんって思ったわけじゃん?


 そうしたらこのざま。あの二人、ギルドに行かないで街を出てしまった。うん、わかってたよ、途中から。どんどん中心から離れていくのに気付いてからは確信に変わってたよね、ギルドいかないの。


 でもでも! その道中でほかの冒険者を見つければいいわけでしょ。でもいないんだもの。見つからないんだもの。仕方ないんだなも! 精神疲労で目の隈バッチリ。


 しかし、私は精霊賢者。ヒトとは比べ物にならないくらいの生を積み重ねてきた。経験も豊富で不測の事態に冷静に対処することができる。


 ということで目的を野次馬に変更だ!


 最近の冒険者のレベルを見定めてやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る