二刀流のふたり

コラム

***

怯える女の前には武器を持った男たちが群がっていた。


その周囲には馬のいなくなった荷馬車と、女の仲間だと思われる男たちの死体が転がっている。


「これだけあれば、当分は遊んで暮らせそうだな」


女に群がる集団の中から、ひとりの男が出てきてそう言った。


周りいた者が男に道をあけているところを見るに、この集団の頭目とうもくだろう。


この男たちの集団は、町から町へと旅をする旅商人専門の盗賊団だった。


商人の女たちの一行が町から離れたのを見て、その後をずっとつけていたのだ。


それから深い森へと入ったのを確認し、まずは護衛をしていた屈強な男二人を不意打ちで仕留めた。


その後は勢いに任せて馬の手綱を引いていた御者を殺し、残るは非力な女ただ一人。


さて、この女をどうするかと、男たち全員が卑猥ひわいな笑みを浮かべている。


「イ、イヤ……お願い……やめてぇ……」


これから自分がされることを考えた女は、震えながら声をあげた。


だが、それは男たちを喜ばせるだけだった。


他人を追い詰めるという精神的快感に酔いながら、男たちはジリジリと商人の女へと近づいていく。


女はこのまま手籠めされるかと思われたが、その前に突然盗賊団の男二人の首が切り飛ばされた。


まるで広場にある噴水のように血を流しながら倒れると、次の瞬間にはすでに別の者が斬り殺されていく。


目的の物を手に入れて油断したと、頭目は部下たちに指示を出すが、次と次と殺されていく仲間を見て統制が取れない。


そして、気が付けば頭目以外すべての男たちは殺されてしまった。


頭目は舌打ちをしながら握っていた剣を構える。


襲撃者は両手に剣を持っていた。


ここら周辺の地域ではあまり見ない剣技だと頭目の男が思ったが、彼はさらに驚かされることになる。


「貴様、その顔……まさか女か!?」


襲撃者の被っていた外套のフードが取れると、そこにはまるでダイヤのような瞳と、短く切りそろえられた髪が現れた。


頭目は襲撃者の髪型から男とも思ったが、その華奢な体格に胸や尻が盛り上がった体つきから女とわかった。


たかが女一人に自分たちの盗賊団がやられたのかと、頭目は激昂する。


「ふざけやがって! だかな、俺はこいつらみてぇにはいかねぇぞ。こちとら毎日死に物狂いで盗賊やってんだ! 女子供の剣なんかにやられてたまるかってんだ!」


「偉そうに泥棒自慢してる場合か? まあ、どうせお前は死ぬからな。最後くらい好きに喚け」


「抜かせッ!」


頭目の男はまるで体当たりするかのように体ごと飛びかかった。


襲撃者の女の体格から、力任せに押しきれば勝てると踏んだのだろう。


しかし、頭目の剣が振り落とされる前に、女の振った二本の刃が男の体を切り裂いた。


腹と喉を斬られた男は、何かモゴモゴと口にしながら倒れ、そのまま苦しそうにもがきながら死んでいった。


「あの、ありがとうございます」


商人の女が、剣についた血を拭っている女剣士に向かって礼を言った。


女剣士は二本の剣を鞘に収めると、彼女に向かって微笑む。


「無事で何よりだ。こんな連中に目をつけられて、あんたも運がなかったな」


女剣士は商人の女の仲間の死体に目をやると、悲しそうな表情になった。


彼女はここらではよくあることだと口にしつつも、やはりやりきれないのか、見ず知らずの者の死に胸を痛めていそうだ。


そんな女剣士に、商人の女が言う。


「言葉だけでなく、ちゃんとしたお礼をしたいのですが」


「気にしなくていい。たまたま通りかかっただけだしな。それに、私にはあまり物欲がないんだ」


「なら別の形で返させていただきます。そうですね……。共に夜を過ごすのなんてどうでしょう? もちろん宿代もお食事代もこちらが出しますから」


その提案をした後に、商人の女は一度町まで一緒に戻ってほしいとお願いした。


女剣士はまた襲われてもいけないと思い、彼女の提案を受け入れることにする。


すると商人の女は、嬉しそうに声をあげて女剣士の腕に抱きついた。


そして驚く女剣士に向って、彼女はその白い頬を赤く染めて呟く。


「こう見えて私も……実は二刀流なんです」


艶っぽく迫ってきた商人の女に見つめられた女剣士は、こりゃ参ったなと言わんばかりに、乾いた笑みを浮かべるのだった。


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