第十九話 第五生 後編
ユーリィが記憶を取り戻してから、マティスが変わったような気がする。現陛下に「戦争を減らす」よう助言したり、税を下げたりしている。
「戦争が減るのはいいが、活躍の場が少なくなるのは残念だな。ようやくマティス様の側近になれたが、案外やることがないんだよな」
兵士達の打稽古の途中。ラティスはそうオキシオに漏らした。
「いいことじゃないか。少し町を歩けば、命を狙われていたマティス様だったが、今はぱったりと無くなった。マティス様が国民に慕われている証だ。双璧がお役御免になれば、それはそれでいい」
「俺は嫌だね。死ぬまでマティス様にお仕えしたい。そのために『傷の戦士』として、ラティスと言う名で生きてきたんだから」
ラティスは左手の平を見て、ギュッと握り締めた。
現在18歳。オキシオもラティスも、いつも通り16歳でマティスの側近になった。ラティスには記憶がない。そしてマティスが『傷の戦士』だと思い込んでいる。彼に関してはこのままでいい。
そういえば、とラティスは続ける。
「お前の家に住み込みで働いてる女中。同じ『傷の戦士』のウィズリーさん」
ラティスは勉強と称して、何度もオキシオの家に足を運んでいる。ウィズリーとも何度も顔を会わせている。
「あぁ、彼女がどうした?」
「いや、どうってことじゃないんだけど、お前と付き合ってるって聞いたんだけどさ…そういうの言えよな。確かに俺とお前じゃ、立場が同じでも格差があるだろ?そういうプライベートなことは言いにくいかもしれんが、俺はお前のことを大事な友人だと思ってる」
「俺も、立場とか関係なくそう思っているよ」
「うん、だから、ウィズリーさんとは実際どうなんだよ」
ラティスが少し照れくさそうだ。
「あー、ああぁ、そういうことか、あぁ…」
オキシオは頭を抱える。
「なんだよ」
「付き合ってなけど…」
「傍から見えれば、お前らそう見えるぞ、というか噂されてるぞ」
それ自体はどうでもいいが、問題はラティスが、おそらくウィズリーに惚れていることだ。ラティスは記憶が戻ると暴走してしまう。【ロックオン】のスキルを持って周りの人を無差別に殺してしまう。ウィズリーと接触は絶対に避けたい。
同僚の恋心を応援したい気持ちもあるが、こればかりはどうしようもない。
「やめとけ、ウィズリーは他に好きな人がいる」
「え!えぇ…そうなのか」
ラティスはがっくりと項垂れた。申し訳ない、とオキシオは内心で謝罪した。
「いらっしゃい。ってオキシオか」
オキシオは久しぶりにジュナインの家に訪れていた。ジュナインの手元には修理中の靴がある。
「仕事中か、精が出るな」
「お陰様で、ここに引き取られるって決まった時は大丈夫か不安だったけど。天職だったんだろうな。最初から靴屋の子として産まれたかったくらいだ」
ジュナインもいつも通り、順調だ。
「そういえば、お前が引き合わせてくれた彼女、エリシアから聞いたんだけど、彼女の家にも、住み込みで『傷の戦士』が働くことになったんだって?」
「ワイトのことか。あいつもお前と同じで、生まれ育った酒屋が向いてなかったんだよ。あいつは花が好きなんだ。リンゴの花に興味があったみたいだし、農園の周りにも珍しい花が咲いているらしい。お前みたいに、天職とまでは言えるかどうかわからないが、今いる家よりかはいいと思うだろ?」
「あぁ、エリシアが喜んでたよ。勉強熱心でよく働いてくれるって」
ジュナインが唇を尖らせている。こちらの恋心も順調なようだ。
「なんだ?面白くないのか?」
「面白いってなんだよ!」
「安心しろ、ワイトが好きなのは、たぶん妹の方だ」
「え?そうなの?」
「だからって気を緩めるなよ、エリシア取られるぞ」
「取られるって、なんだその言い方、俺がエリシアを取られたら嫌みたいじゃないか」
「嫌じゃないのか?」
ジュナインはそっぽ向いた。
「お帰りなさいませ」
ジュナイン宅訪問後、オキシオはすぐに帰宅する。それを出迎えたのはウィズリーだ。
「陛下がオキシオ様をお呼びです」
「そうか、すぐに支度する」
「はい、整っています」
言って、ウィズリーは兵装を差し出した。
「さすがに早いな」
「恐縮です」
ウィズリーは無表情でそう言った。
そういえば、最近、犯人探しの話をしなくなった。出会って数年は「早く犯人を殺したい」と言っていたが…。
相変わらず不愛想ではあるが、刺々しさがなくなり、丸くなったようにオキシオは思う。
やはり彼女もジュナインと同じく、環境が変わって、気持ちの持ちようも変わった。きっとまだ犯人を許していないだろうが、憎悪は随分薄れたように思う。
「オキシオ様」
「今は二人きりだ、敬語はいらないよ」
「わかったわ…。私も陛下に呼び出されたの」
「お前もか、なら『傷の戦士』に関してのことだろうな」
「久しぶりね、皆で顔を会わせるのは」
「今回はラティスもいるだろう」
「ラティスも…」
彼女の頬が赤らんだ。おいおいマジか。
「まさか、君、ラティスが…」
「ち、違うわよ!何度かこちらでお目見えした時に、一言二言お話ししただけで…同じ『傷の戦士』だし、彼も犯人かもしれないでしょ?気になるのよ」
犯人かも、という意味で気になっていないのは明白で…。君達、いつの間に思い合うほど仲良くなってたんだ。
出来るならラティスと良い関係になれるよう背を押してやりたいが…。いや、この際ラティスの記憶を戻してもいいかもしれない。記憶を取り戻して暴れるとわかっているのだから、力づくで彼を縛り上げたうえで記憶を戻す。最初こそ暴れさえするが、体力にも限界がある。力尽きれば多少は冷静になり、話を聞いてくれるかもしれない。
ラティスが記憶を取り戻すということは、つまりオキシオがウィズリーに言った「オキシオが運転手である」という嘘がばれてしまう。それで自分が犯人と分かれば、ウィズリーは怒り狂うかもしれない。でももう殺すことだけを考える彼女ではない。例えオキシオが死ぬ結果になったとしても、きっとラティスが彼女を支えてくれるだろう。
今まで苦しんできた甲斐があった。4度目の成功を経験して良かった。今、着実に被害者たちが幸せになる道を歩んでいる。どうかこのまま…。
「明日の僕とユーリィの誕生祝賀会に同士を招待しようと思っている」
それは、悲劇が始まる場所だ。
「な、なぜ急にそのようなことを」
オキシオは震える声を抑えながら尋ねた。
「前から計画していたんだよ。驚かせたくて、君にもユーリィにも、そしてラティスにも内緒にしてたんだけどね」
「良いですね陛下、私も一度、他の『傷の戦士』に会ってみたいと思っていました」
ラティスが言うと、マティスは嬉しそうに頷いた。
「祝賀会とは別に部屋を用意した。そこでゆっくり話そうじゃないか。他の同士たちについては、オキシオ、君が把握しているんだろ?」
「はい」
「今回は君達も来賓だ。町に暮らす『傷の戦士』は、他の兵士に迎えに行かせよう」
「し、しかし陛下、彼らは一般国民です。陛下の祝賀会に招くなど」
「そんなことを言わないでおくれオキシオ。同士じゃないか」
意見が覆ることはなさそうだ。ユーリィとウィズリーは困った顔でオキシオを見る。
オキシオは顔を伏せ、目を閉じ、考える。
考えるな、怪しまれる。すぐに答えを出せ。大丈夫だ。マティスに記憶はない。ユーリィは良き王妃になった。ウィズリーの殺意も薄らいでる。以前のようにジュナインが殺されることはない。否、そのような事態に陥っても、自分がジュナインを守ればいい。大丈夫だ。問題ない。
「私も良き考えだと思います」
オキシオはうそぶく。
「ありがとうオキシオ。明日、夕方までは迎賓達と祝賀会をするが、そのあとは同士達だけのパーティだ。その時はオキシオとラティス、そしてウィズリーも正装で来てくれ。楽しみにしていてほしい」
マティスは、優しく微笑んだ。
翌日、正装に着替えたオキシオとウィズリーは、招かれた部屋に向かう。道中、ラティスと合流した。
ドレスアップしたウィズリーを見て、ラティスは頬を赤らめた。
「ラティス様、よくお似合いで」
ウィズリーも微笑む。至近距離まで近づいた二人の間に、オキシオは割って入った。ラティスがオキシオを睨む。
「何をするんだオキシオ」
「ラティス、ちょっと来い」
オキシオはラティスの腕を引き、ウィズリーと距離を取る。
「お前の気持ちはわかっている。ちゃんとまた紹介する機会をつくるから、今日は大人しくしていてくれ」
「本当か?」
少し不機嫌そうなラティスであったが、一転、目を輝かせた。
「本当だ」
「わかった、今日は大人しくしていよう」
「よろしく頼むぞ」
そうだ、まだ何が起こるかわからない祝賀会。もうエリシア達も会場にいるはずだ。念には念を、何も起こらないよう、皆で乾杯して終われるよう、努めなくてはならない。
ウィズリーと共にパーティ会場に到着する。部屋にいたのはエリシア、ジュナイン、ワイトと数人の女中と兵士だけ。これは前と同じだ。
ジュナインと言葉を交わしていると、マティスとユーリィが現れた。皆が食事の席に着く。
「今日は華やかでとても素敵だわ。ウィズリーさんもエリシアさんもとても可愛らしいわね。殿方たちもお似合いだわ」
「そ、そんな、女王陛下も素敵ですよ。ね、エリシアさん」
「はい、赤いドレス。とってもお似合いです。」
「ありがとうウィズリーさん、エリシアさん」
ユーリィは上機嫌に話す。この場が和む。良かった。いい流れだ。
「へぇ、“特別な力”のことを、スキルというのか。ワイト、僕のスキルは何かわかるのかい?」
「うん【音を消す】だね」
「ご名答。その目は本物だね」
「羨ましい力だ。ジュナインのスキルは奇襲をかけるのにうってつけだ。君が兵士でないのが残念だよ」
「兵士なんて、僕は一生靴屋で満足ですよ」
誰かが睨み、誰かが妬み、誰かが蔑む。そんなことが一切ない。
このまま、このまま祝賀会が終わってくれれば…。
縁もたけなわ。デザートを食べ終えたところで、ユーリィは満足げに息を吐いた。
「本当に楽しい祝賀会でしたわ。迎賓の方より、『傷の戦士』とお話ししている方が楽しかったわ」
「私もだ、オキシオはジュナイン達と交流が以前からあったんだよな。俺もそれに混ぜてほしい」
「歓迎するよラティス」
「さて、随分遅くなってしまったね」
マティスがゆっくりと、発言した。
「引き留めてすまなかったねみんな。今日は城に泊まるといい」
え、とジュナインが声を上げる。
「まさか、国民の僕らが城に泊まるなんて…」
「いや、今日だけじゃないよ、これからずっと、僕らは一緒にいるんだ」
会場が、シンと静まり返った。
えっと、と声を出したのはユーリィだ。
「どういうことですの陛下?」
「私はね、ずっとさみしかったんだ。みんなと同じ『傷の戦士』なのに、皆、私を遠ざける。ユーリィ、君は僕より、オキシオとよく話していたね」
「そ、それは…」
「陛下!あれは、私が仕入れを希望した、薬草の相談をしていただけです!」
オキシオは立ち上がり、叫んだ。
「それだけじゃないよオキシオ。君はジュナインもそうだけど、エリシアとワイトとも面識があるんだね。ウィズリーとの仲も噂されてる。僕は男だから、ユーリィとエリシアとウィズリーの話にはついていけないし、オキシオとラティスも仲が良いし、ジュナインとワイトもそう。僕だけが、孤独だ」
マティスは立ち上がり、庭を指さした。
「あそこに別邸を用意した。これから君たちが暮らす場所だよ。この国にはないアサガオ、という花を周りに植えた。ユーリィは話してくれたね。アサガオには「固い絆」という花言葉があると。素晴らしいと思った。あのアサガオが咲き誇る別邸で、僕たち『傷の戦士』は絆を深めるんだよ。僕も、8人目の『傷の戦士』として、君達と一緒に…」
「陛下!」
皆が絶句するなか、オキシオが叫んだ。
「何をおっしゃいますか!国民の自由を奪うなど許されません!」
「オキシオこそ何を言うんだ。自由を奪っているわけじゃない。私は『傷の戦士』としてここに集まったみんなとの絆を大事にしたいんだ。そして、『傷の戦士』の子孫を残し、より絆を強くし、後世に残していきたい」
「子孫って…」
ユーリィが青ざめる。
「ジュナインとエリシアは、良い中の様に見える。ウィズリーもオキシオと付き合っているんだろ?ユーリィは女王陛下なんだから、好きな相手を選んだらいい。私じゃなくてもいいよ。大丈夫、愛はなくても子は産まれる。ね、ウィズリー」
ウィズリーの額に青筋が浮かぶ。
勢いよく立ち上がった彼女の椅子が倒れる。
「ふざけるな!この中に私と私の子を殺した殺人犯がいるんだ!その犯人が誰かも分からないと言うのに、交われというの!絶対に嫌!」
殺人犯、とマティスはつぶやく。
「殺人犯がいるのが嫌なのかい?確かに殺人犯はいるけど、気にする必要はないよ」
「おやめください陛下!」
オキシオが叫び、マティスに駆け寄ろうとする。
「おい、オキシオを止めろ」
「ハッ」
兵士達がオキシオを取り囲む。
「オキシオ!」
ラティスも立ち上がる。
「気にするなラティス。すぐに開放するさ。話が終わったらね。あぁそうだ、殺人犯の話だったね、ウィズリー」
「陛下!」
マティスがウィズリーを見る。彼女は、怒りで震えている。
「オキシオとラティスは結構殺してるけど、まぁ彼らは戦争に出ていた時期があるからね、それは仕方ない。でもジュナイン。君は興味深いな」
ジュナインが息をのむ。額に冷や汗が浮かんだ。
「7人も一気に殺しちゃったのかい?でも気にしなくていいよ。私はそれを罪に問わないから」
ななにん、とウィズリーは言う。
「ジュナイン、どういうことなの?」
エリシアが不安げに尋ねるが、ジュナインは、何も言えない。
「…」
「ジュナイン、何か言ってよ」
「おまえか…」
ウィズリーはつぶやいた。
「お前が殺したのか!私を!息子を!」
ウィズリーが叫ぶ。ジュナインが驚愕する。
「何を、僕は…」
「やっと見つけた!お前を、殺すために私は生きてきた!」
ウィズリーがスカートの裾をめくりあげる。太ももにナイフが縛りつけてある。それを手に取った。
「やめろ!やめてくれウィズリー!ジュナインは違う!俺だ!俺が犯人なんだ!」
「うおおおおおおぉぉぉ!」
オキシオの声は、ウィズリーの絶叫で届かない。取り押さえられたオキシオは動けない。ウィズリーはジュナインに刃を向け、彼女は突撃する。
「やめろウィズリー!」
ラティスが、ウィズリーの、腕を持った。持ってしまった。
「っ…!」
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
ラティスの瞳孔が開く。視点があってない。
「ああああああああ!」
ラティスはウィズリーからナイフを奪い、そのナイフで彼女の首を切った。
「ど、して、あなたが…」
ウィズリーは倒れ、絶命する。
エリシアとユーリィの叫び声がこだまする。
マティスがため息をつく。
「兵士達、ボーっとしてないでラティスを止めろ」
「がああああ!やめろーーー!近づくな!熱い熱い!!やめろーー!」
「ちっ、うるさいな、もういいや、ラティスも殺して」
兵士達が一気にラティスに襲い掛かるが、ラティスは【ロックオン】で確実に兵士達を殺していく。オキシオを抑えていた兵士達も加勢に行き、オキシオは解放されるが、絶望に打ちひしがれ、その場から動けずにいる。
ジュナインがエリシアを連れ、部屋の隅で彼女を抱きしめている。ワイトは椅子の下で震えている。ユーリィは呆然と立ち尽くしている。
「どうして…こんなことに…」
ユーリィの目に涙が浮かぶ。気づけば、ラティスは兵士全員切り伏せていた。それでもラティスの攻撃が止まることはない。
オキシオは、立ち上がった。
「ラティス…すまない、また君を、こんな様に…」
オキシオはとめどなく涙を流している。倒れる兵士から槍を奪い取り、ラティスと対面する。
「痛い!痛い!痛い!やめてくれぇぇ!たすけてくれぇぇ!」
「これで君を殺すのは三度目か…」
オキシオは【ロックオン】を交わし、槍でラティスの胸を貫いた。
部屋の隅でエリシアが声も出さず、涙を流しながら震えている。ジュナインは強く抱きしめる。ワイトは相変わらず、椅子の下から出ようとしない。
あーあ、とマティスがため息をついた。
「大事な同士が二人死んじゃった…これからみんなで幸せになれると思ったのに。まぁいいや。さぁ、ここの片づけは他に任せて、僕らは別邸に行こう」
「ふふふ」
「オキシオ?」
「あーーっはっはっはっは!」
「何だい、君も壊れたのかい?」
「俺も?俺はずっと壊れてるよ!でなきゃ!前世であんなに人を殺したりしない!」
「また前世とやらか、君といいウィズリーといい、私を仲間はずれにして何を話していたんだい?」
「何だろうな…何なんだろうな!なんでみんな普通に生きてくれないんだ!そんなに難しいことなのか!前世では通りすがりの人々や、挨拶程度の隣人だって、普通に幸せに暮らしてた!そんな奴らが当たり前のようにうじゃうじゃいた!狂うのは俺一人でいいはずなんだ!死ぬのは俺一人でいいはずなのに!なんでみんなそうなっちまうんだよ!」
叫びながら、マティスに近づく。
「オキシオ!何をするつもりですか!」
ユーリィが叫ぶが、オキシオの歩みは止まらない。
マティスの前に立ち止まったオキシオは、持っていた槍を構える。
「僕も殺すのかい?」
「君は、ここで俺が止めなきゃならない」
「そうかい、兵士もみんな倒れちゃったから誰も助けてくれないし、僕も死ぬのか…あーあ、嫌な人生だった」
「やめてオキシオ!」
「すまない、香澄…」
オキシオは、その槍でマティスの身体を貫いた。
オキシオはすっと息を吸い、ゆっくりと吐き出した。マティスを貫いた槍を抜き取る。
ユーリィはその場にしゃがみ込み、ボロボロと泣いている。
「もういい、これもなかったことになるんだからな」
言って、オキシオは自分の首に槍を当てた。
「やめるんだオキシオ!」
叫んだのはジュナインだ。
しかしオキシオはその声を聞かず、自分の首を貫こうとした。
その刃は首を貫かず、床に落ちた。
「あ、あぁ、そうだった…こんな時も、自分で死ねないのか…」
オキシオは、ゆっくりと辺りを見渡す。その目にジュナインが映る。オキシオはゆっくりとジュナインに近づいた。
「ジュナイン、頼みがある。俺を殺してほしい」
「なぜ…」
「もう、ここで生きていたくない」
ジュナインは、抱きしめていたエリシアの背を優しくなでる。
「ジュナイン?」
「大丈夫、少し待ってて」
ジュナインはエリシアを背に立ち上がる。
「オキシオ、すまなかった」
「なぜ君が謝る」
「僕の所為なんだろ…こうなったの…俺が人殺しだから。ウィズリーさんだっけ?あの子の大切な人が、あの落石事故の被害者だったんだろう?お前に救われたあの時、僕がお前に甘えず、罪を償っていれば…」
「…そうだな、人を殺すということは、計り知れない罰を背負うということだ。俺も、背負っている。自殺なんて、罪を投げ捨てる身勝手なことは許されない。寿命すら奪われた。許されるわけないんだよ…だから俺は死ねないんだ」
「お前も、背負っているのか?」
「あぁ」
「お前は、僕にお前を殺す罪も背負えと言うのか、大切な恩人を、友達を」
「俺は君の恩人なんかじゃない。そんなに偉い人間じゃないよ。大丈夫。君は国王殺しのオキシオを倒した英雄になる。ユーリィ様もそう計らってくださる。エリシアもワイトも君も、ちゃんと家に帰れるよ」
「そんなことを言ってるんじゃない…君自身が許そうと、君を殺す罪は消えない」
「大丈夫、消せるさ、信じてほしい」
オキシオはジュナインに槍を押し付けた。
「頼む、終わらせてくれ」
ジュナインは槍を握り締める。
ジュナインは、その槍でオキシオを貫いた。
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