文芸サークル殺人事件 作:水彩度
俺は探偵小説が嫌いだ。
この世にある、ありとあらゆる文学作品のジャンルの中で、俺は探偵小説をいっとう嫌っている。そう思ったのはいつからだったか、正確には覚えていない。確かに俺は、親父が警察関係者という身の上ではあったが、親父はしがない交番勤務の一警官で、殺人事件のようなセンセーショナルなものが身近にあったわけでは全くない。だが物心がつき、いっぱしにも自分の信条というようなものを持つようになる年齢になったころには、既に自分の意思を持ってこの奇妙なジャンルを心底疎んでいた。
考えてみれば全くもって不可解なジャンルではないだろうか。大抵の場合、人の死というのは話の導入にしかなりえず、よほどのことがない限り、ページは殺人者の方に多く割かれるだろう。こんなものに道理が通ってなるものか。頭の良さを免罪符に、奇行がもてはやされ、悼むべき死のまさにその場所において、傲岸に、不遜に、口の端をいやらしくつりあげ、人差し指をゆっくりともたげる奴らのことが、俺は心の底から腹立たしかった。
だというのに、だ。なんだ今のこの有様は。窓の外を、葉の生い茂った木々たちが流れていくのを見ながら、大学生らしい感傷に浸っていた俺は今いったいどこに向かっているか、己自身がちゃんとわかっているのだろうか?
「なぁ~琢磨ぁ。いい加減機嫌直せってぇ。俺が悪かったよ。お前がミステリとか嫌いなのは知ってるけどさ、写真とか動画とるだけだし、旅費食費も全部こっちもちだからさぁ。ちょっとしたバイトと思ってさ、協力してくれよ」
「別に怒ってねぇよ。ちょ~~~~っと怒ってるだけだ。確かにお前は文芸サークルに入ってるってのは聞いてたけど、ミステリ研究会とほぼ同じだなんて言ってなかったじゃねぇか。もちろん金払ってもらう分仕事はするけどさ、なんか、モヤモヤすんじゃん」
「悪かったって」
何を隠そうこの俺は、自分の口で探偵小説が嫌いだなどとのたまいながら、同じ体で今まさに当大学の文芸サークル兼ミステリ研究会の卒業旅行に同行しているのだ。当たり前だが俺は部員ではない。部員なのは今隣でレンタカーを運転しているこいつ。一年のころからの友人で、これまでに随分とつるんできた。所属しているサークルこそ違ったが(というか俺はどこにも所属していない)、それ以外の時間はほぼ共有していたような腐れ縁だ。そんな腐れ縁からの、卒業間近の頼みとあれば断るという選択肢が元々なかったというのもある。俺が頼まれたのは奴の部活の卒業旅行への同行で、その間の記録係を担って欲しいとのことだった。最近は写真に重きをおいている人間も多いので、自分たちが目一杯楽しむためにはまあそういう形をとるのもあるんだろうと二つ返事で承諾した。まぁ確かに知らない奴らの卒業旅行に同行するのは多少気が引けるかもしれないが、記録係に徹してお金もでるのであれば、さっぱりバイトと割り切れるだろうと感じていた。むしろ親しい友人がいるならばバイトよりは楽しめる時間もあるだろうと楽観的に考えていたが、まさかこんな裏切りが待っているとは思わなかった。ミステリ研究会、ねぇ。そんなものを嬉々として書くやつの顔が逆に見てみたいな。
「で、そのペンションまではあとどんくらい?」
「あと十五分もしないかな。他の皆はもう着いてるみたい」
件の卒業旅行は、まぁ旅行という名はついているものの、大学からそう遠くはない場所にある山奥のペンションを借りて二、三日悠々自適に過ごすというものだった。偏見だが少なくともアウトドアではないサークルなわけだから、まぁそんなものだろう。一応役職持ちだという隣のこいつも、何やらイベントを用意してるのだとそわそわとしていた。俺にも誘いの声がかかっているので、まぁビンゴ大会みたいなレクレーションをいろいろとやって過ごすつもりなのだろう。景観も整えられている場所なので、外をのんびり散策するのも悪くない。そう思うと、少しはこの旅行も悪くはないように思えてきた。山の近くとはいえ、ちゃんとしたキャンプ地の中なので、こうして目の前までは整備された道路が通っているし、電気もインターネットも通っていて、さほど不便なこともなさそうだ。
「あはは、そう警戒しなくてもクローズドサークルみたいにはならないよ。警察も呼べばすぐくるし、ここ数日は天気もいいから道路が塞がるなんてこともないよ。まぁこんな平日にペンションなんて借りてお気楽にやってるのは俺らみたいな大学生だけだから、流石にキャンプ場には俺らしかいないらしいけどね」
見事に考えを読まれたようだ。し前からずっと、ペンションの様子や周辺の状況を聞きまくっていたらそう思われるのも無理はないか。まぁだって、なんだ、こういうときにはそういうのがお決まりじゃないか。巻き込まれる身としてはたまったものじゃないが。
そんなことを考えながらぼうっと残りの時間を過ごしていると、ほどなくして目的地に到着した。なるほど確かに綺麗に整備された静かなキャンプ場で、最後の旅行で選ぶにはもってこいの場所だと思った。多少コンビニまで遠いというのはあるが、得てしてキャンプ場なんてそんなものだろう。二、三日分の飲食物は全部持ち込んでいるとのことだったし、俺がやることは今この車の後ろに詰んである幾ばくかの機材を下ろすことだけだった。
天気は憎らしいほどの快晴だった。本当にいっそ、憎らしいくらいに。
「な? 結構綺麗な所だろ?」
一通りの荷物を下ろし終えて、今日泊まる自分の部屋を整えていると、そう後ろから声をかけられた。部屋には人一人が十分に寝られるベッドが一つと、簡単な机と椅子が置かれている。最低限だが整えられていて、寝泊まりするには申し分なかった。
「ん、思ったよりな。普段あんな狭っ苦しくて古くさい所に住んでると、こんな広いところで自由にできるのは気分がいい。まぁ緑の多さは正直キャンパスと変わらないけどな」
「あはは、違いないね」
そう軽口を叩きながら、俺は促されて広間の方へ向かった。もちろん、今回の本分であるビデオカメラを忘れずに。写真はまぁ、スマホで事たりるだろう。記録係を引き受けておいてなんだが、正直日常生活でカメラをまわすことなんてそうそうないので、操作は多少心許ない。まぁ向こうとしても素人に頼んでいるのだからそこまで本格的なのは望んでいないだろうけど。というよりもなんだ、おそらくだがこの記録係というのも、そういう建前なんじゃないかと俺は思っている。あいつのことだから、卒業旅行というものに多少俺を巻き込みたかったというのもあるんだろう。うぬぼれかもしれないが、ここ数年つきあってわかっている範囲で、あいつはそういう奴だった。俺としても、あいつがどんな形であれ楽しんでくれれば、俺自身のことはどうでもいいんだが、だがなんとも、それでも消化しきれない違和感が喉元に張り付いていた。予感、勘とも言うべきなのだろうか。根拠も理由もまるでないが、あいつに話を持ちかけられたときから、頭のどこかで何かが小さく警鐘をならしている、気がする。気がするだけ、だが。
「準備も済んだし、早速顔合わせといこうか」
そんな俺の気持ちも露知らず、あいつは広間に入る前にニヤリとこちらを振り返った。そしてそのまま広間に続く扉をあけると、その向こうにはこれまた綺麗に整えられたそこそこの広さの空間が広がっていた。奥にカウンターキッチンらしきものがあり、その手前に大きなテーブルが置かれている。そのテーブルには既に数人がついていて、ドアが開いたと同時に無数の目がこちらに向けられた。
「お、そちらの人が例の記録係さん?」
一番初めに口を開いたのは、一番右奥に座った大柄な男だった。手にしていたスマホをおろして、ニヤリとこちらに視線を向けている。
「ああ、その方ですか。初めまして」
次にその手前にいた女性が声をだした。鈴の鳴るような高い声で、長い髪が後ろで結ばれている。あとの二人の男女も、少し口角を上げてこちらにぺこりと頭をさげる。俺もそれに答えるように少し頭を下げる。
「お~みんな集まるの早いねぇ。部会のときはあんなにバラバラなのに」
「お前も変わらんでしょ」
最初に発言した男性が、肩をゆらしながら笑う。隣のヤツも楽しげにくつくつと口の中で笑いを漏らすと、「ここ、琢磨の席」と案内し、自分も余っていた一番手前の席についた。俺は一応仕事なので、その様子も念のため写真にとっておいた。席に着いてたメンバーはスマホや読書など思い思いのことをしていたようだが、みな手をとめ、じっと俺たちに視線を注いだ。
「んじゃまぁそろったし、今回は記録係もいるから、まずは自己紹介からしようか。ビデオもとってるから記念にさ。じゃあ部長、進行は任せた」
そうして部長と言われて目線を向けられた女性が「投げるの早いね」と笑いながら手を挙げた。
「はい私。部長、です。えっと……」
「ちょっといい? 良い提案あんだけど」
そうして部長が自己紹介を始めようとしていたときに、最初に発言した男が急に口を挟んだ。
「このあとさ、例のレクレーションもあるんでしょ。でさ、記録係さんもいきなり俺たち全員の名前聞かされても覚えられないと思うから、この旅行中は役職名とかで呼ぶのはどう? 普段それで呼び合ってるようなもんだし、ちょっとした余興の感じでさ」
男の提案に、他のメンバーも次々に「面白い」と賛成し始めた。向かいに座ったアイツも「それいいね」なんて笑っていたので、俺も「別にいいよ」と返した。いや、内心少し嬉しいくらいだった。俺はどうにも人の名前を覚えるのが苦手なタチなので、個人の情報量を抑えてもらえるのは助かる。それにこのメンツの関係性も多少はわかりやすくなるので、思いのほかいい提案なのかもしれない。そうして改めて自己紹介が行われることになった。
「じゃあ気を取り直して。私が一応部長、です。そう呼んでくれればいいかな。学部は工学部。研究は……詳しく言っても良いけど専門的になっちゃうからこれ以上は言わないでおこうかな。まぁ物質の強度についてとかその辺のとこ。あとは特に特筆して言うことはないかな。いっぱい写真撮ってもらえると助かります。よろしく」
部長と名乗る女性は座っていても随分小柄で、軽いお辞儀にあわせて、まとまった黒のショートボブがサラサラと耳元でゆれた。部長はそのまま向かいにいる先ほどの男に手を向けた。
「そうね、順番的に次は俺かな。役職は書記。別に字がきれいなわけじゃないけどいつの間にかそうなってた。学部は文学部。専門は近代日本らへんをちょこっとって感じかな。よろしく」
「書記ほとんどしてなかったでしょ」「いつも教授の愚痴ばっかだけどな」などと口々につっこまれながら、書記はぺこぺこと頭を下げた。なるほど、今までの感じと今のこの様子を見ると、このメンバーの中ではムードメーカー的な立ち位置らしい。そうして書記はそのまま隣にいた大人しそうな女性に目配せした。
「あ、次は私か。どうも初めまして。ここにきてなんだけど私役職持ちじゃなくて……。でも他に音楽系のサークルも兼部してて、ここの集まりでもよく弾いてたから、ちょっと恥ずかしいけどギタリストとかで呼んでもらえたらいいかな。学部は農学部。日本史をやってました。よろしく」
「ギタリストって言ってるけど、書く作品はなかなかすごいんよね。ちょっと耽美系が入るというか……」
書記がそう口を挟むと、「ちょっと書記さん!」とギタリストは困ったように声を上げた。そうか、役職を言ってはいるが、一応ここにいるメンツはみんな何かしら執筆している人間っていう認識でいいのだろうか。同じ年代の人間が、かたや創作活動をしているのだと考えると、あらためて何だが不思議な心持ちだった。なんというか、自分たちにもできることなんだ、みたいな意外な気づきというか、盲点というか。自分と年も過ごしてる環境もそう変わらないというのに、なんかこう違うのか、というか。そうしていると彼女は次に一瞬こちらに目を向けたが「記録係さんは流石に最後かな」というと、目の前に座った物腰柔らかそうな男性に手のひらを向けた。
「そうだね、僕が先がいいか。どうも初めまして。僕は編集を担当してました。締め切り守る人と守らない人の差が激しすぎてこの四年間苦労したよ。学部は部長と同じく工学部。実は分野も同じ。まぁよろしく」
落ち着いた声の、いかにも好青年と言わんばかりの様子だった。俺の正面にいるヤツは「いやあその節はマジで悪かった」と笑うとそのまま言葉を続けた。
「で、何を隠そう俺が副部長ってわけ。バイト代払うから頼んだぞ~琢磨」
その突然の告白に、俺は一瞬呆気にとられた。
「はぁ? 副部長? 聞いてねえぞそんなの! 役職持ちとは聞いてたけど、副部長ってお前……」
「え~言ってなかったっけ。そうなんだよ~実は副部長。まぁお前は別に俺のこと普段通り「豊」って呼んでくれていいけどさ。まあ一つよろしく」
変なところで秘密主義のやつだとは思っていたが、まさかそんな大事なことを知らせてくれていなかったなんて、驚きを超えてもはや呆れの域だ。もしかしたら四年間の会話のどこかで言ったのかもしれないが、少なくとも俺が認識するまで言われた覚えはない。なんて奴だ。少しいらだちを覚えながらも、俺は続けて自己紹介をする。
「あ~まぁこいつにはあとでじっくり話を聞くとして、どーも、俺、浅葱琢磨といいます。浅葱でも琢磨でも。学部はこの副部長と同じで法学部。今回はあくまで記録係で、皆さんの旅行を邪魔する気はないので、あまり気にしないでいてもらえると助かる。まぁ面識がないやつがずっといるのは気まずいかもしれんが、俺はちゃんとバイト代もらってここにいるので、文句はこの副部長まで。あ、撮られたくないものとかあったら先に言っててくれ」
そう言い終えると、メンバーが口々に「よろしく」と返事をする。これまでの様子を見ている限り、コイツから話はちゃんといってたみたいだし、ある程度は歓迎されているようだ。これなら特に気にせず自分の仕事に徹底できるだろう。
「じゃあ、一通り自己紹介も終わったとのことでイベント開始ということにしましょうか。皆さん四年間お疲れ様でした。このサークルで出会ったのも何かの縁なので、最後の旅行、楽しんでもらえるといいかな。持ち回りでレクレーションも企画してるので、まぁ、何、うん、楽しみましょう」
彼らメンバーの性格なのか、思いのほか静かに、そうして最後の卒業旅行は開幕したのだった。このままでいけば、そこまで羽目を外しすぎるということもなさそうだ。一定の距離をとりつつ、俺もその穏やかな楽しさの一部に預かれれば万々歳か。このときの俺は、まだそう楽観的にも思っていたのだった。
予想通り、このイベントは何かトラブルが起きることもなく、つつがなく進行していった。ソファに置かれていた妙に大きなバッグはなんなのかと思っていたが、何を隠そうその中はボードゲームでパンパンになっていた。自己紹介を終えた俺たちは、とっかえひっかえボードゲームに熱中した。俺もその様子をビデオにとったり、カメラに写したりしながら、ときおりその中に混じってなかなか楽しい時間を過ごさせてもらった。
文芸サークルだなんて言うから、どんなとっつきにくい奴らが出てくるかと思っていたが、なかなかどうして、こいつらは非常に気の良い奴らだった。こんな仲間内の旅行に、不躾にもいきなり入ってきた俺を腫れ物扱いすることもなく、着かず離れずの距離感で迎え入れてくれている。ゲームをする中で、なんとなく彼らの関係性も見えてきた。やはり書記は場の流れを掴むのがうまく、今も嘘を見抜くゲームで軽口を交えながら的確に疑わしい人間を追い詰めている。
「おいおい、編集さん、嘘つきはお前なんじゃないの」
「あはは、やめてよ。そういう書記の方がなんか誘導してない?」
気のよさそうな編集は、笑ってそれをひらりと交わしながら、普段の書記の悪行をばらして情緒的に反撃する。いや、その話本当なら酒癖悪すぎないか、書記。彼らの中で鉄板エピソードなのか、編集の反撃に場がどっと盛り上がる。もう既に脱落してしまった部長と副部長が、机の端で身を寄せながらクスクスと何かを話している。俺はその様子をカメラに収めながら成り行きを見守った。横では同様に最後まで残ったギタリストが静かに肩を揺らしている。
「なかなか白熱っすね」
「ふふ、そうですね。あの人たちはいつもああですから」
俺の言葉に、ギタリストはくつくつと笑いながらそう返す。立ち位置的に俺の目線から彼女の手札は見えているので、その内容に反したあまりにも落ち着いた様子に苦笑いをこぼした。柔らかな雰囲気だがなかなか読めないな、この人。
最後のゲームはそうして、終盤まで大いに盛り上がるものとなった。編集と書記の言い合いは泥沼になり、そうして自滅し合った結果、結局横の彼女が一人勝ちしてしまったのだった。四年間過ごした上での信頼、思い出の共有、理解。何も知らない俺がみても、それらは非常に好ましかった。そしてそれと同時に、俺にとってはそれらが非常にまぶしくもあった。俺だってまぁ、友達がいなかったわけではない。むしろ、いまだあそこで部長と妙に肩を寄せながらこそこそと笑っている副部長のアイツとの時間は長く濃いもので、毛恥ずかしいがそこまで退屈ではなかった。個との繋がりはそれなりに築いてきた俺だが、やはりこんな集団としてのきらめきを見せられてしまうと、こう、みぞおちの辺りが重く沈むような、胸の辺りに何かつっかえるような、そんな気持ちを柄になく抱いてしまう。まぁ結局無いものねだりに過ぎないのだろうが、俺が獲得し得なかったそれらを目の前にまざまざと見せつけられると少し苦しくもあった。カメラ越しの彼らが、どうにもそれ以上に遠く見えるようだった。
「はーい、じゃあ今日のレクレーションは終わり。やっぱボドケは盛り上がるね。んじゃそろそろ夕飯にしますか」
そうして部長の言葉で、この楽しい時間は一旦お開きになったのだった。ダラダラと机の上を片付けながら、各々今度は夕飯の支度に取りかかる。取りかかるとはいうものの、今日は出来合いのオードブルを囲んだ酒盛りのようで、準備らしい準備はあっという間に終わり、そしてあっという間に宴が始まってしまったのだった。おいおい、せっかく広いキッチンもあるのに初日からこれかよとも思ったが、まぁ大学生の旅行なんてこんなものだろうか。こぎれいな整った場なんて必要なく、一時間と立たずに宴はピークを迎えていた。俺はまぁ一応仕事なので、度数の低い缶チューハイをちびちびとあおりながら、カメラを輪に向けていた。今日聞いた話だけでもなんとなくわかっていたが、まぁ書記は飲む飲む。なんて言っていたら人畜無害そうなおっとりとした様子の部長の前にはぞっとする量の缶が転がっている。何だこいつら。しかし尋常でないのはその二人くらいで、それ以外のメンバーはごくごく常識的にこの場を楽しんでいるようだった。
「もう卒業か~早いねぇ。みんなそれぞれいっちゃうのさみしいな」
増え続ける空の缶の割には当初からさほど顔色の変わっていない部長は、そう寂しげに呟いた。
「それなぁ。みんな見事にバラバラだもんな」
「でも、なんと言っても書記じゃない? だってあの作品、書籍化もう決まってるんでしょ?」
「ん~まぁなぁ」
「よ、我らが文芸サークルの星!」だなどとアイツに冷やかされながら書記は自慢げに缶を煽っている。ほお、書籍化。ということは、彼の作品が賞だのなんだのとったのだろうか。確かにそれは文芸部員としては本懐か。
「へえ、すごいっすね」
いつの間にか横に来ていた部長に俺がそうこぼすと、少し赤らんだ顔で彼女は「ん」と返した。文芸サークルなるものには縁がなかったため、せいぜい趣味のサークルくらいに捉えていたが、なるほど中にはそういう道をいくやつもいるのかと感心してしまった。
「そうそう、確かタイトルは……」
と、アイツが口を挟もうとしたとき、輪の端でガチャンという音と共に液体が飛び散る音がした。一斉に向いた視線の先には、慌てて拭くものを探すギタリストの姿があった。
「ごめんなさい! こぼしちゃった……何か拭くものあるかな?」
グラスにはまだ中身が入っていたようで、水滴が机の下にも垂れていた。俺はあわててカメラを置いて片付けに加わった。そうしてバタバタとしているうちに宴会はお開きになり、つつがなく一日目は幕を閉じたのだった。
風呂が思いのほかでかかったとか、潰れた書記を部屋まで運ぶのは大変だったとか、その後にもいろいろありはしたのだが、総じてまぁ旅行の滑り出しは悪くはなかったんじゃないかと思う。全ての片付けを終えて、ベッドの上で目を閉じると、今日のあの賑やかな声が頭の中でリフレインしてくる。この年にもなって集団でつるむなんてと、少々意地ばった反抗心でなんとなくこういった集まりを避けてきた俺にとっては、ことのほか彼らはまぶしく思え、いっそただうるさいだけの嫌に気安い奴らだったらどれだけましだったかなんて、妙に辛気くさい気持ちになるのだった。いや違うな。それもあるが、俺はアイツが、俺の知らない表情で顔を緩ませているのが気に入らないだけなのだろう。なんとも子どもじみた考えだ、と暗い天井を見つめながら自嘲する。自分の中にまだこんな感情があったのかと、もはや感動すら覚えながら再び目を閉じる。ことのほか、俺はアイツのことが気に入っていたんだな。「この年にもなって」などとつまらない意地を張らずに、もっと年相応に素直に生きればよかったのかもな、なんて、最終学年のこんな時期にもなってそんなことを考えながら意識を少しずつ沈めていった。
二日目も、何の特筆することもない快晴だった。
皆が起きてきたのは随分遅い時間で、全員で食卓を囲む頃には朝飯だか昼飯だかよくわからない時間帯になっていた。随分深酒をしていた書記は案の定二日酔いのようで、左手にもったトーストはほとんど減っていなかった。対して同じくらい飲んでいたはずの部長はもう既にペロリとプレートの上も空にして、優雅にコーヒーを啜っている。はあ、個人差って面白いな。時期にそぐわないぽかぽかとした気温に当てられて少し眠気を覚えながら、俺もダラダラと用意してもらったものを食べ進めた。
今日は何をするつもりだろうか。寝る前にある程度昨日のデータも整理したし、まだまだメモリには空きがあった。起き抜けの間抜けな顔でも写してやろうかと全員の顔をぐるりと見回す。朝が弱いのか、少し呆けた様子でフォークを動かしているギタリストの横で、涼しい顔のアイツがちょうど皿の上のものを食べ終えていた。やめろ、決め顔するな。今は撮ってねえぞ。
「よぉし、ある程度みんな食べたからこの後のこと確認しよっか」
マグカップにいれたコーヒーを飲み終えた部長が、そう声を上げた、
「まぁどうせこんな感じになるだろうと思って、今日は午後からしかレクレーションは用意してないでーす。それまでにちょっと準備して欲しいことがあるから、今からの時間はそれをお願いします。詳細は全体ラインに送っといたからそれにあわせて動いてね」
メンバーはそれぞれ携帯を見ると、自分たちの皿を片付けながら各々自分の持ち場へと散らばっていく。編集とギタリストはキッチンの方に向かうと、なにやらガチャガチャと支度を始め、書記は「じゃ、いってくる」と残すと広間の外に出て行った。
レクレーション。一体何をするつもりなのだろうか。それぞれの挙動をカメラに収めながらぼんやりと考える。どんなことをするかもまだ俺は知らされていない。準備をする、ということはある程度大きなことをするつもりなのだろう。さて俺はどうするべきかとアイツの方を向くと、同じようにアイツがこちらを向いてニヤリと笑いかけてきた。
「そんな顔すんなよぉ。まぁ楽しみにしててな」
何やら含みのある笑顔だった。くそ、なんだか腹立つな。そんな顔もしっかり収めてやろうと、今度はスマホのカメラを向けて写真をとろうとすると、最後まで場に残っていた部長が話しかけてきた。
「副部長さんと記録係さんは私と一緒ね。車から荷物出すの手伝ってくれるかな?」
俺は頷くと、ソファに置かれた昨日とは別の大きな鞄をガサガサとあさりだした編集とギタリストを広間に残して、部長の後に続いた。
「一日経ったけど、記録係さん。旅は楽しめているかな?」
誰が乗ってきたかは分からないが、大学生が持つにしては少し大きめな車から飲み物やちょっとした日用品を降ろしていると、そう部長に話しかけられた。アイツは二巡目の荷物運びでペンションの中に行っているため、この場には俺ら二人しかいなかった。
「あー、まあ。輪にいれてもらって何よりっす」
ちなみにこれは本心。もっと上手く言えたかもしれないが、素直に「楽しい」と言ってしまうのは、アイツの無理な誘いの手前、毛恥ずかしくて口にすることはできなかった。そんな俺の様子に部長は何がおかしいのかケラケラと笑った。
「あはは、ならよかった。副部長くん、ちょっと強引なところあるからねぇ」
そう言って、部長はアイツが戻ってくるであろう方向を、目を細めながら眺めていた。俺はその様子に少し思うところもあったが、これ以上邪推するのは野暮だと思い、そのまま口を閉ざした。なるほどねぇ、アイツもなかなか。
そうこうしていると、視線の先で扉が開き、何もしらないヤツが脳天気な表情で「ん、どしたどした?」と言いながら近づいてくる。
「ふふ。なんでもない」
部長はそう柔らかく返すと、最後の荷物を下ろし終えた車のドアをバタンとしめた。今持っている分で終わりかと思い腕時計を見ると、解散したときから一時間程度立っていることに驚いた。車の作業の前にも、水や電気の確認など外での作業をいくらかしていたが、荷物下ろしは思ったより重労働で、時間がいつの間にかすぎていた。そろそろ全体の準備も終わっただろうということになり、俺たちはペンションの中へと戻ることにした。
例の広間に戻ると、そこには洗ったコップを拭いているギタリストの姿があった。
「あ、皆さんお疲れ様。今コップ洗ったところだけど、何か飲むかな?」
ギタリストはそう柔らかく微笑むと、拭き終えたコップを机に並べ始めた。
「お、ありがとな~。みんなも終わっただろうから、一旦集まって休憩にするか。あ、編集はどこいった?」
アイツの言葉でその場にいる全員がキョロキョロと部屋内を見回すが、確かに広間には編集の姿はなかった。
「あれ、おかしいなぁ。一緒にここで作業してたんだけど……。あ、そういえば一階の奥の倉庫に備品を確認してくるって言ってたかな。まだそこにいるのかも」
「お、そかそか。上で作業してる書記もついでに呼びにいこうぜ」
「そうね、そうしましょう」
コーヒーの準備をしだしたギタリストを残して、俺らは残りのメンバーを呼びに広間を再び後にした。最後に部屋を出る前にもう一度ちらりと部屋の中を見回したが、ソファの上に多少荷物が増えたくらいで、他には特に変わったところは見られなかった。準備とは言っていたが、残りの奴らは何をしていたんだろうか? 俺らがやったことも特に何の変哲もない荷物運びや雑事で、これから起こる事への予想は全くもってたたなかった。
時刻はすっかり昼下がりと言える時間になっていた。昨日から変わらずの陽気な天気に、少し眠気を感じながら前の二人の後をついて行く。目的の倉庫は廊下の一番奥にあり、そのドアは大きく開かれていた。
「お、じゃあまだ中にいそうだな」
歩みを早めたアイツがそのまま俺らに先立って部屋の中をのぞき込みにいった。が、のぞき込んだまま、アイツはそのまま動きを止めてしまった。ん、中にいなかったのか? そう思い、俺も続いてアイツの体を避けて部屋の中をのぞき込んだ。部屋には電気がついていたが、随分古くなっているのか全体はそこまで明るくなく、薄ぼんやりした空間の中に工具などの備品がところ狭しと置かれているのが見えた。ちらかってんなぁと思いつつ視線を床に落とすと、そこに目的の人物は、いた。俺らが探していた編集がそこに、いた。しかしその様子は明らかに普通ではなかった。編集は頭を向こうにしてうつ伏せに倒れていて、その周りにはおびただしい量の血のような赤黒い液体が広がっていた。あ、これは……と思ったとき、「も~二人ともどうしたの? 急に固まって」と、部長が俺らの体の隙間ごしに同じように部屋をのぞき込んだ。まずい、と思った次の瞬間、ペンション中に部長の大きな悲鳴が響いた。その声に、固まっていた俺らははっとして、中に飛び込む。
「いや、いや、いやいやいや!!」
「琢磨! お前は部長を頼む!」
部屋の入口で部長が錯乱し始めたのを見て、そうヤツは指示を飛ばすと、そのまま編集へとかけよった。俺は再び部屋の入口に戻ると、その場に座りこんで短く息をする部長を落ち着かせようと何度も呼びかけた。
「どうした! 何があった!」
そうしているとバタバタと階段を駆け下りる音と共に、書記が現われ、続いて後ろからギタリストが駆けつけてきた。そしてその場に座り込んだ俺らの頭上ごしに部屋の惨状を見ると、同じように絶句してその場に立ち尽くした。
「書記! お前は早く警察と救急車を! 琢磨はそのまま女の子達を頼む」
ヤツは「おい、おい!」と編集に呼びかけながら、的確に指示をだした。はじかれたように書記がポケットから携帯をだして通報し始めると、ギタリストは力が抜けたのかそのままずるずるとその場に座り込んだ。俺はそのまま泣きじゃくり続ける部長とギタリストに声をかけて、二人を広間まで誘導した。動揺して放心状態の二人をソファに座らせると、多少不安ではあったがそのまま二人を残して倉庫へ走った。すると、通報を終えたであろう書記が、ドアの前でアイツと神妙な面持ちで話をしていた。
「豊! どうだった、編集は……」
「……素人の判断だけど、探しても探しても脈は止まってた。血の量から駄目かもとは思ったけど、やっぱり……」
その言葉に俺も書記も息をのんだ。一体なぜ、どうして。ほんの一時間前まで会話をしていた人間が、今さっきその生命を終えたという事実を、俺は飲み込めずにいた。いや、違う。そもそもなんで、だ。なんでこんな場所で。なんでこんな中で。
ぴぴぴぴっ。ぴぴぴぴっ。ぴぴぴぴっ。
その瞬間、どこからか電子音が鳴り始めた。しんとした廊下に、無機質な等間隔の音が響く。俺らはごくりを一斉に唾を飲むと、おそるおそるその音の出所を探した。
ぴぴぴぴっ。ぴぴぴぴっ。ぴぴぴぴっ。
音はどうやら二階から鳴っているようだった。止むこと無く鳴り続けるその音に耳を立てながら、俺らはそっと二階への階段をのぼった。二階は昨日も泊まった俺らの個室になっていて、その音はその部屋の中のどこかから響いているようだった。最低限のプライバシーとして、個室には鍵をかけようとなっていたので、ドアを開けないまま一つずつ、耳を当てて音の出所を探していく。
「ここか……」
その音は一番奥の左手の部屋から漏れていた。昨日の記憶を引っ張りだして考える。俺が寝るために部屋に上がったときにちょうどこの部屋の主も戻ったところで、ドアの奥に編集が消えていったのを見たのを覚えている。同じように二人も思い当たったのか、書記がアイツに視線を送ると、こくりと頷いてアイツは下の階に走って行った。
そうしてまもなく、息をきらして戻ってきたヤツの手には鍵が握られていた。なんとなく恐ろしくて口にはださないが、きっとあの冷たい体の服の中からもってきたのだろう。そうしてゆっくりと鍵穴に鍵をいれてまわすと、がちゃりと小さな音が聞こえた。ぴぴぴぴ、と相変わらず電子音は鳴り響いている。俺らは静かにドアを押すと、おそるおそる中に足を踏み入れた。
乱れたベッド。机に広げられた荷物。いやに使用感を残したままの部屋の窓際に、それはあった。窓枠に、午後の突き刺すような日の光を受けながら小ぶりの目覚まし時計がたたずんでいた。確認するまでもなく、音はそこから出ている。書記がツカツカと歩み寄って荒々しくそれを掴むと、苛立たしげにそのスイッチを切った。
「なんだよこれ。偶然か?」
けたたましくなっていた音がぴたりと止むと、後には痛いほどの無音があたりを包む。誰も何もそれ以上言えないままでいたが、なんとなく視線を向けた先、先ほどまで目覚まし時計があったところに一枚のメッセージカードらしきものが置かれているのに気づいた。俺はそれを掴むとそれをゆっくりと裏返した。
『この者は私の研究を奪い、そして私の未来を潰した』
カードの裏には、そう書かれていた。俺の肩ごしに二人もそれを見ると、また重苦しい空気が俺たちの間に流れた。ここが編集の部屋だとすると、このメッセージが指す「この者」とは編集のことなのだろうか。だとするとこれは、犯人による犯行声明文とでもいうのか。
ばかばかしい。そう思いつつも、そう思わざるを得ない状況に、俺たちは三人して黙り込むしかなかった。誰ともなく「広間に行こう」と言うと、部屋もそのままに俺たちは逃げるようにその場を後にした。
広間では女性二人がソファで身を寄せあっていた。部長は相当ショックが強いらしく、先ほどからずっと俯いたままだ。そんな彼女らに言うのも酷だとは思ったが、俺たちの尋常でない様子に、ギタリストからの「何があったのか」という視線が痛く、俺は言葉を選びながら先ほどのメッセージカードの話をした。
「部屋に鍵はたしかにかかってた。そしてその鍵はたしかに編集が自分で持ってた。……だとすると犯人はいつ、どうやってそれを編集の部屋に置いたんだろう」
続けてアイツが静かにそうこぼした。そう、そこなのだ。遺体を見た時点では、まだ何かしらの事故や自殺という可能性もなくはなかった。しかしあのメッセージが見つかったということは、あれは明確に「殺人」だったということになる。しかし犯人は、本人しか鍵を持っていないこの状況において、いつ部屋に侵入し、いつあのカードを置くことができたというのだろうか。しかもあの目覚まし時計。あれがちょうど亡くなった編集を見つけた直後に鳴ったということは、あの時まだ周辺に犯人がいたということになる。俺たちのほかに、誰かいたというのだろうか。いや、俺たちは発見の直前まで外にいたが、見知らぬ車両などは他になかった。この場所は一般人の生活圏とはずいぶん離れたところにあるため、車やバイクでないとたどり着くことはできない。かといってあのカードの内容を信じるならば、迷い込んだ無差別犯という訳でもなさそうだ。
では、あの声明文を信じるとするならば。それならばじゃあ。
「ねぇ部長。こんな時に言うのも違うかもしれないけれど、貴方決まってた研究職の内定、取り消されたって言ってたわよね。……それと何か関係してる?」
隣に座っていたギタリストが、鈴のような声で、しかし平時よりもずっと冷たい声でそう言った。その言葉に場は一瞬にしてぴんと張り詰める。みなの視線がうつむき続けている部長に注がれた。
そう、あの声明文を信じるならば、この場で最も怪しいのは同じ学部で同じ研究室だという彼女しかいなかった。しかも今のギタリストの話も信じるならば、何やら研究関連で編集ともめて、就職にまで響くような何かがあったのだろう。それならばこのような凶行に及ぶのは、少しは同情ができるものだが、しかし、彼女には犯行は無理だったはずだ。
「違う、違う違う違う。私じゃない、私じゃないわ……」
「……確かに、あのカードを信じるなら同じ学部の部長が怪しいことになるけど、でもこの人には無理ですよ。皆と別れてから色々準備してましたけど、その間中俺と豊と部長でずっと三人で一緒でしたよ。豊は何回か荷物運びでいなくなることはありましたけど、でも少なくとも俺は部長とずっと一緒でした」
俺の言葉にみなが再び息を詰めるのが聞こえた。そう、そうなのだ。あの準備の時間中、俺はずっと部長とは同じところにいた。一時間程度のことだったのでトイレに立つこともなく、後半は主に車からの荷物整理を担当していた俺たちは、互いが視界の外に行くことは片時もなかったと断言できる。そんな彼女に犯行は絶対に無理だ。
「違う、違う……」
うわごとのように、部長はそう繰り返す。しかしそうならば一体誰がこんなことをやってのけたというのだろうか。確かに、他のメンバーにはアリバイなどあったものではないが、彼らには動機がない。動機はあるがアリバイが完璧な部長。アリバイが完璧だが動機がない書記、ギタリスト。結論を出すにはあまりにも不十分すぎた。
「あの、ちょっとすまん。う、き、気持ち悪いから、吐いてくる」
そう口早に告げると、書記はドタドタとトイレの方へ駆けていった。この状況で一人になるのは、とも思ったが、声をかける暇も無くドアの向こうに書記の姿は消えていった。
まぁ無理もない。友人が何者かに殺されて、そしてその犯人が身の回りにいるかもしれないという緊張。元々部外者の俺ですら先ほどから嫌な汗が止まらないのに、付き合いの長い彼らならなおさらこの状況は耐えられないだろう。残された俺らはただひたすらに黙るしかなかった。
しかし、流石に書記のことが心配だ。体調が悪いならなおさら。アイツの方も同じ考えだったのか、互いに同じタイミングで顔を見合わせると、「ちょっと書記が心配だから見てくる」と言って共に広間を後にした。
ドアを出て、例の倉庫とは逆にある玄関傍のトイレに向かおうとしたとき、俺はふとポケットに違和感を覚えた。正確には何も感覚がないことに違和感を覚えたのだ。スマホが、ない。事件が起きるまでにカメラと一緒に持っていたはずだがいつの間にかなくなっている。どこでなくしたのか、と記憶をたどると、倉庫を出たタイミングから自分の手元が軽くなっていたのを思い出した。あのときの衝撃で、きっと部屋の中にそれらを放り出してそのままにしてしまったのだろう。取りにいく、か。もう一度あの部屋に入るのはとてもとてもためらわれたが、こんな状況だからこそ、何かあったときのためにせめて携帯くらいは持っていたい。とても気は進まなかったが、そのことをアイツに伝え、まずは一緒に取りにいくことになった。
「あんまり入りたくはないけど……確かに携帯はちょっと持っておきたいな」
書記の方にも行かなければならないので、あまり時間をかけるわけにもいかず、重い足取りをなんとか叱咤しながら倉庫へ向かう。閉じていたドアを再び開けると、部屋の中には少し前に見たのと全く変わらない光景が広がっていた。薄暗い室内、大量の備品。そして、死体。先ほどよりも強くなった血の匂いに吐き気が強まる気持ちがしたが、なんとか口を手で押さえて部屋の脇に視線を向ける。すると、案の定ドア付近のところに、カメラと一緒に俺の携帯が落ちているのが見えた。急いでそれを手にとり、部屋を出ようとしたが、そこで俺はある違和感を覚えた。
ちらりと視線を向けた編集の遺体の先。彼の伸ばされた左手の先に、何かが不自然に置かれているのが見えた。後ろからアイツのいぶかしむ声が聞こえたが、無視してゆっくりと違和感の先に歩みを進める。遺体の肩越しにのぞき込むと、そこには一冊の本が落ちていた。おおよそこの部屋にある備品とは思えないそれを、俺はおそるおそるのぞき込んだ。本は開かれた状態で置かれていて、開いたページの上に編集の生白い手が置かれている。その手は何かを示すような形で固まっていて、その指さされた先をよく見ると、それはその本の奥付の部分のようだった。本の題名、発行年、印刷所の下に見慣れた名称が書かれていた。
「この、文芸サークル……?」
そこには確かに俺の大学の名前。そしてこのサークルの名称が書かれていた。確かに本にしては少し表表紙も裏表紙も薄い作りになっているなとおもったが、これはどうやらこのサークルが発行している同人誌のようだった。そしてゆっくり視線を下げていくと、青白い指が指しているのは、この本の編集担当者の名前のようだった。山田颯一と書かれている。編集? なぜこいつは自分の名前が書かれている部分を最後の最後で指しているのだろう。他の部分は血に濡れて見えなくなっており、その部分だけが嫌にはっきりと残っていた。
「琢磨? どうした、何かあった?」
その声に「いや、別に」と返すと、俺は携帯をしっかり握りしめて部屋を後にした。本をのぞき込むときにちらりと見えたが、編集はどうやら胸にささった刃物のようなもので命を落としたようだった。しかしまた、なんだってあんなものを最後に残したのだろう。彼らの出した同人誌ならなおさら、あの部屋には元々なかったはずだ。編集はなぜ、わざわざあの本をあそこに持ち込み、そしてそれを持ちながら殺され、そして最後に自分の名前を指し示したのだろうか。何か意味があるように思えて仕方ないが、何かを導き出すにはまだ明らかにパーツが足りない。
そんなことを逡巡していると、すぐに書記が駆け込んだであろうトイレが見えてきた。小さいペンションながらも男性用、女性用にトイレは別れていたので、扉が閉まったままの男性用トイレの方を俺らはノックした。
「おーい! ちょっとは落ち着いたか! 大丈夫そうなら返事してくれ」
そうアイツが声をかけるが、中から返事はない。そんなにひどい状況なのかとも思ったが、中から嗚咽が聞こえてくるわけでもない。しかし一つだけ、中から聞こえてくる音があった。水音だ。それも数滴の音ではなく、ざあざあびちゃびちゃと「水が大量に溢れているような」音がする。その音がすることの違和感に気づいた俺らは、はっと互いの顔を見合った。おかしい。確かにトイレは中に手洗い場が設けられていたが、それを使っているくらいではこんな音はならない。例えば、水がそのまま出しっぱなしになっているような、そんな……
「おい、おい! どうした、何があった! 開けるぞ!」
アイツがそうドアに向かって叫び、ノブに手を掛けると、ドアは初めから鍵がかかっていなかったかのように、ゆっくりと開き始めた。恐ろしい予感に息を詰まらせながら見たその先には、書記が、そのがたいの良いからだを便器の横側に横たえているのが見えた。書記は仰向けに倒れていて、その胸には深々と短い矢のようなものが突き刺さっている。
「な……おい、書記、書記!」
アイツがすぐさま駆け寄って体をゆらすが、何も返答はなかった。矢の刺さり具合からして、もう既に、というのは素人でも見てわかった。
ざあざあびちゃびちゃと、先ほどの音は右手に備えられた手洗い場の方から聞こえていた。蛇口が開けっぱなしになっていて、シンクの部分には何かが詰まっているのか、そこにたまった水があふれ出して少しずつ床の方にも水が流れ出していた。先ほどの音はこれかと思い、俺は一旦その水を止めようとした。
「琢磨、待って」
その声に俺はぎくりとし、出していた手を引っ込める。そのまま眉をひそめた表情でヤツがこちらに近づいて、その手でゆっくりと蛇口をしめた。揺らいでいた水面が落ち着くと、シンクの中にあったものがやがて見えるようになった。シンクの排水溝をせき止めていたのはスマホだった。穴の上にぴったりと重なって、それで水がたまってしまっていたようだった。アイツはそれを静かに拾いあげると、今度はうってかわっていつもの表情で、「女の子たちのとこに戻ろう。心配だ」と言った。俺はその一連の行動に少し奇妙な感じがしたが、いつもの表情ながら確かに感じる圧におされて「お、おう」と返すと、そのまま二人で広間の方に足早に向かった。
広間では先ほどと同じ体勢で、二人がじっと黙り込んでいた。先ほどの俺らの焦った声が聞こえたのか、ギタリストが不安げな視線をこちらに向けてくる。続けてこんなことを知らせるのはひどくためらわれたが、俺は書記がトイレの中で死んでいたことを告げた。その言葉に、ギタリストが目を見開き、部長がはっと顔をあげるのが見えた。
「何かが胸にささってた。矢、みたいな。でもかなり小さめだったからあれは弓というよりは……そう、ボウガンみたいな」
確かに、あの形状からするとボウガンの矢だと考えるのが妥当だろうか。だがあの場所には発射装置の方は残されていなかった。何より、書記がここを出てから俺らに見つかるまで、誰も一人になる瞬間はなかったはずだ。女性二人はどちらかが部屋を出ればわかるだろうし、俺と豊は何よりもずっと一緒に行動していた。またしても、誰にも犯行は難しかったといえる。いや、難しいどころではなく不可能だ。アリバイもなおのこと、凶器のボウガンだって、あのそこそこ大きいものを気づかれずに持ち込んであの凶行に及ぶことは万が一にも不可能ではないだろうか。
「あ、副部長。その手に持ってるスマホ。裏に何かある」
青ざめた表情のままの部長が、そうこぼした。その言葉に、アイツは手に持っていたスマホをゆっくり裏返す。そのスマホはシンクの底に沈んでいたもので、記憶違いでなければ昨日から書記が使っていた、特徴的なブルーのカラーの携帯だった。透明なカバーの裏には、確かに何か紙のようなものが挟まっている。朝、彼がいじっていたところを見たときには、こんなものはなかったはずだ。
アイツはカバーを外してその紙を取り出すと、俺らの目の前でそれを表にした。
『この者は私の作品を奪った』
紙にはそう書かれていた。よく見るとそれは、編集の部屋にあったものと同じデザインをしていて、そのことに気づいた俺らはまた言葉を失うことになった。
またこれだ。これが書記を殺した動機だとでもいうのだろうか。そうして昨日の会話を思いだす。確か彼の作品は書籍化されると言っていたか。だとすると、これはそのことをさしているのか。その作品が実は書記のものではなく、別の人間から盗んだもので、それで名声と富を得ようとしていたのならば、確かにそれは恨みとなってもおかしくはないとは思うが、だが一体誰が……
「作品……そういえば、あの彼の作品。なんだかいつもの彼の作品にしては随分雰囲気が違ったわよね。いつもは凝った探偵小説かエッセイしか書かないのに、急に狂愛の話なんか書いて……。本人は新しいジャンルに挑戦したって言ってたけど、あれってまるで貴方の……」
「ぶ、部長さん? もしかしてそれは私のことを言っているの? どうして、私は関係ないわ、私は、私は……」
ジロリとした嫌な目線が、部長からギタリストに向けられる。部長はどうやら、動機の面でギタリストを怪しんでいるようだった。確かに彼女の話を信じるならば、今この場で最も怪しいのはギタリストということになるのだろうか。しかし、それだって犯行は不可能だ。それは部長自身が何よりわかっているはずだ。しかしその痛々しい応酬を、俺らは黙って見るしかなかった
「でも、でも、殺す理由なら貴方しかないじゃない、ねえ、ねえ!」
部長の語気はどんどんヒートアップし、今にもギタリストにつかみかかろうとしている。ギタリストの方も、小さな声で「違う、違うの」と呟きながらじりじりとソファの上を後ずさる。そろそろまずいな、と思い仲裁に入ろうとしたときだった。部長から逃れるように後退していたギタリストが、ソファに置かれていた荷物群にどすんとぶつかった。誰ともなく「あ」と呟くと、その衝撃で荷物の一部がゆっくりとソファ下に落ちるのが見えた。それはスローモーションのようにゆっくりと、ゆっくりと俺たちの目の前で落下すると、大きな音を立てて地面にぶつかった。
それはよく見ると、ギターケースのようだった。大量の荷物に紛れて、その特徴的な形はうまく隠れていたようだった。閉まりが甘かったのか、落下の衝撃で、ケースは下向きに開いた状態で落ちていた。しかし、俺たちは同時に聞いていた。落ちるときにがちゃんという軽い音。中にギターが入っているにしては随分軽い音だった。不思議に思い、アイツがみんなに先んじてそれを拾い上げる。その下にあったものを見て、誰かがごくりと息をのむ音がした。
「ねえ、これって……」
そこにあったのは、紛れもなくボウガンの発射装置の方だった。しかも、所々に赤い何かが飛び散っている。まさか、まさかそういうことなのだろうか。これが、書記の犯行に使われたものだというのだろうか。
「これってギターのケースよね。なんでこんなものが入っているのよ。ねえ、やっぱりあなたが……」
確かに、特殊な形をしたそれを隠すには、ギターケースくらいがちょうどよかったのだろう。ケースの裏側のクッション材が上手いこと削られていて、ぴったりボウガンがはまるように調整されている。しかしケースの閉まりが甘かったのを見ると、多少厚さの面では上手いことはまらなかったのだろう。しかし、それならば、確かにこの状況証拠はギタリストが犯人だと指し示している。いささか示しすぎているとも言えそうだが、今はそう解釈するしかない。
「違う、違うわ。信じてよ皆さん。信じてください。私ずっと部長と一緒にいたじゃない」
やがてギタリストの言葉には涙がにじみ始めた。再び部長に責められてなお、違う違うと繰り返すギタリストの声は、やがて息が詰まったように途切れ途切れになり始めた。ひ、ひ、と空気が変に抜ける嫌な音がする。
「まずい、過呼吸になり始めてる」
あわててアイツがギタリストに駆け寄って背中をさすり始める。彼女は次第に肩で息をするように大きく体を揺らし始め、吐く息の間隔はどんどん早まっていた。「琢磨、水を」と言われ、俺はあわててキッチンに駆け込んだ。机の上のコップには既にコーヒーが注がれていて、今はコーヒーなんかより水の方がいいだろうと、洗い立てでシンクの傍にあったコップの中から適当なものを掴むと、水道水を注いで急いで彼らの元に向かった。
ギタリストは変わらずひゅーひゅーと音をさせながら息をしていて、傍の二人が心配げに声をかけている。俺はもってきた水をギタリストに渡し、まずはそれを飲むように促した。ギタリストはコップを受け取ると、震える手でそれを掴み、ゆっくりとそれを口に持っていった。
一口、二口飲んだところで、少し落ち着いたのか、ギタリストがゆっくりと息を吐く。すると、次の瞬間だった。彼女はえずくように大きく体を震わせると、何度も苦しげに声をあげた。「う、う」とあやふやな言葉を二、三度こぼし、何度も何度も大きく体を震わせたと思うと、ぎくりと体をこわばらせ、そのままゆっくりと前のめりに倒れた。
俺らはあっという間のその様子に、声をあげることも、動くこともできずにいた。目の前で起こっていることを、理解したくないと脳が叫んでいる。そのままギタリストの体がどさりと床に倒れた音を聞いて、やっと俺らははっと正気を取り戻した。「おい! 大丈夫か!」とアイツが叫んで駆け寄り体をゆらすが、ぴくりとも動くことはなかった。先ほどまで大きく震えていた体は、もう人形のようにその力を失っていた。
すると、すぐ近くで携帯のアラーム音がけたたましくなり始めた。聞きなじみのあるそのメロディーは、すぐ傍で、いや目の前のどこかからなっている。俺らの視線は彼女の体に注がれていた。その視線の先、彼女のスカートのポケットの中で、ピカピカと点滅しながら震えている携帯が見えた。俺は慎重にそれを取り出す。手帳型の薄いケースのようで、アラームを止めようと俺はそのケースを開いた。するとそこからするりと、一枚の紙がすべりおちた。紙は俺らの目の前をするりするりと静かに落ちていく。紙が落下すると、そこに書かれている言葉が全員に見えた。
『この者は、私の恋路の邪魔をした』
今までの二人の時にあったものと、全く同じデザインだった。そのことの意味に、俺はぶわりと鳥肌がたつのを感じた。それと同時に、となりの部長が大きな悲鳴を上げた。
「なんで! なんでよ!」
部長は今まで以上にいやいやとかぶりを振りながら取り乱すと、そのままバタバタと広間の外へ走り出した。今度こそ一人で行かせるのはまずいと思い、俺はこの場をアイツに任せて部長の後を追って走り出した。
広間を出た先で、二階への階段を上がる部長の後ろ姿が見えた。俺は「くそっ」とこぼしながらそれを追って階段を走りあがる。あがりきる前に、二階の方でばたんとドアが閉まる音がした。どこかの部屋に入ったのかと思い、階段を上がりきって部屋を見回したが、どの部屋もぴったりとドアが閉じられていた。それぞれの部屋には鍵がかかっている。そしてあんなに錯乱した状態で、鍵をあけるという細かい動作が彼女にできたとは思えない。ということは、今この状況で鍵が開いていたのは……
「編集の部屋か!」
目覚まし時計を止めに行った際に、確かに俺たちは編集の部屋の鍵を開け、そしてそのままドアも開け放しにしていたはずだ。焦った彼女が入るとしたらあそこしかないだろう。俺は急いで一番奥のドアに向かい、ノブをまわしたが、ガチャガチャと音がするばかりで一向に開く気配はなかった。ちくしょう、中から鍵をかけたのか。
「おい、部長さん! 開けてくれ、今一人になるのはまずい!」
ガンガンとドアを叩きながらそう叫ぶと、ドアのすぐ向こうにいるのか、震えた彼女の声が聞こえたきた。
「いや、だって、だってもう。もう、だめなのよ。もう、もう、最後までやらなきゃ……」
「な、なんのこと言ってんだ? いいからここ開けてくれよ。別に俺らはあんたを疑ってるわけじゃないって!」
彼女の言い回しには少し違和感を覚えたが、なおもドアをあける気はないらしく、俺の呼びかけはむなしくドアの前に落ちていった。しかし大声でまくしたてるのは逆効果かと思い、俺は一旦呼びかけを止めて、ドアの向こうの音に意識を集中させた。彼女は大丈夫だろうか。すると、コツコツと彼女が部屋を歩く音が聞こえた。それは段々部屋の奥に向かっていき、やがて木のきしむようなぎしりという音がする。もう一度大きくきしむ音が聞こえたと思うと、部長の「え?」という声が聞こえた。何が、と思った次の瞬間、何かが外れるガタリという大きな音がすると、「ああああああ!」という部長の叫び声が聞こえた。そしてガシャーンという破裂音。嫌な予感は最高潮まで高まり、俺は再び大声で呼びかけた。
「おい! おい! 部長、何があったんだ!」
鍵は一向に開かない。これはもう突き破るしかないと体当たりの構えをとったときに、階段の方からアイツが近づいてくるのが見えた。
「琢磨! 今の音は一体……」
「豊、いいから今このドアを破るから来てくれ!」
俺の尋常ではない様子に何かを感じたのか、アイツはきっと顔を苦しげに歪ませ、急いでこちらに駆け寄ってきた。そして息を合わせてドアに向かって体当たりをする。何度か繰り返すうちに、成人男性二人分の力に耐えられなくなった扉がバタンと勢いよく開いた。その衝撃と共に部屋に飛び込み、急いで中を確認する。部屋は前に見たときよりも少し乱れていた。しかしなによりもその中で違和感を発していたのは、奥の正面にある窓だった。本来そこにあるべきはずの窓枠はすっかり消え、その向こうには既に傾きかけている空が広がっている。傍のカーテンが、風にゆられてバタバタとはためいていた。
ああ、まさか。俺たちはそんな確信とも言うべき嫌な予感を胸に、ゆっくりと、ゆっくりと、窓際に近づいた。窓の向こう、下をのぞき込むと、その下に部長が倒れていた。傍には窓枠とガラス片が散らばっている。いや、ここは二階のはずだという淡い期待があったが、不運にもこの部屋の下は裏口のコンクリート階段になっていて、そこにちょうど頭を打ち付けたのだろう彼女の頭部は、見るに堪えないくらい真っ赤に染まっている。一目で、もう助からないことが見てとれた。
俺は、ずるずると力が抜けたように座り込む。同じようにその惨状を見たアイツは口を手で押さえたままあとずさると、何かに気づいたようにベッドの反対側に置かれた机に手を伸ばした。そこには、あのカードが置かれてた。もはや俺らの間には言葉はなかった。それをアイツが持ち上げると、ちょうど裏側が俺の方から見えた。
『この者は、私の友人を見殺しにした』
アイツも同じようにカードをひっくり返してその文面を読むと、大きく目を見開いた。そして一つ大きな息をつくと、そのままドアの方にむかって歩き出した。そしてドアのところで立ち止まり、こちらを振り返る。
「琢磨、逃げよう。ここはもうだめだ。何がどうなっているかわからない。まずは、逃げよう」
アイツはそういうと、ドアの向こうに消えていった。俺は抗議する気もおきず、力の抜けていた足になんとか力を入れて、アイツの後を追おうとした。部屋を出ようと歩きだしたそのとき、勢いよく開けたドアがぶつかったのか、ドアそばにあったクローゼットの扉が壊れて半端に開いているのが見えた。なんの変哲も無いはずのそこに、俺はなぜか目線が吸い寄せられた。男物のアウターがいくつか下げられたその下に、あるものが置かれているのが見えた。それは確かにアコースティックギターであった。ゆるやかな曲線を描いたそれが、生身のままそこに置かれている。
それを見て、俺はがつんと頭を殴られるような心地がした。それと同時に、ある嫌な考えが頭の中でだんだんと湧き上がってくるのを感じた。いや、まさかそんな。そんなはずは。しかし……
「琢磨、琢磨! 早く!」
再びアイツの声が聞こえた。俺はその声にはっとし、急いで玄関へむかって歩き出した。しかし、もうその歩みには、今までのような軽さはなかった。考えまい、考えまいと思う度に、悪い考えばかりが頭を支配していく。
アイツは既に車に乗り込んでおり、窓を開けて俺に向かって何度も呼びかけていた。その声も、もう、俺にはただの音としか聞き取ることができなかった。のろのろと助手席に俺が乗り込んだのを確認すると、アイツはそのままエンジンをかけて車を動かし始めた。日はすっかり傾き始めていて、あたりは淡いオレンジ色に包まれていた。俺ら以外に人の気配はなく、明かりがともったままのペンションが、ぼんやりと薄気味悪くたたずんでいる。アイツは器用に車を動かすと、すぐにペンションは見えなくなった。
車の中は、依然として重苦しい空気が漂っていた。しかし、俺の頭の中では先ほどからある一つの考えばかりが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返した。そうであっても、そうであってほしくない。相反した気持ちばかりがぐるぐると頭の中をめぐる。俺は耐えきれずに、ちらりと運転席のアイツの顔を見やった。視線に気づいたのか、アイツもこちらにふっと視線をよこす。俺はきっと、ひどく思い詰めた顔をしていただろう。しかしアイツはそんな俺を見て、驚くでも、心配するでもなく、ただただ眉根を寄せた悲しげな表情をするばかりだった。今までに何度か見たような、泣きたそうな、そんな顔だった。
その顔を見て、俺はすっかり腹が決まってしまった。アイツがそんな顔をするのなら、きっとそれはそういうことなのだろうし、それに俺が気づいていることにもヤツは気づいたのだろう。俺は視線を正面の窓に戻し、小さく、しかし確かな声で呟いた。
「なあ、なんで俺ら警察とすれ違わないんだ」
車内はずっと、重苦しいままだった。俺の言葉に、アイツは答えなかった。横目に、ただハンドルを握る手が少し強まるのが見えただけだった。互いに何も言わないまま、車はひたすら林の中を抜けていく。しかし、町へ向かう分かれ道にさしかかると、アイツは一つ息を吐いて、ハンドルを来た方向とは逆の道に向けた。車は町と反対方向に曲がっていく。俺は何も言わなかった。それがアイツの選択なら俺は黙ってそれを受けいれるだけだった。その点においては、俺はアイツを信じていたし、そして俺がそうであることをアイツも信じていることを、俺は長年の付き合いから確信していた。
少しした後、車はやがて止まった。どうやらこの山にあるいくつかの観光名所の一つで、車でも通ることのできる、渓谷にかけられた大きな橋のようだった。その橋に入る手前でアイツは車を止め、何も言わずに車を降りた。そして俺も後に続く。季節相応の冷たい風が吹き付けていて、俺はぶるりと身を震わせた。そんな内にアイツはどんどん橋の方へ歩いていき、俺も重い足取りのままそれに続いた。一歩一歩踏み出す度に、足からは黒い影が斜めに伸びた。
橋のちょうど真ん中あたりまでくると、アイツは立ち止まった。落下防止の策に体をもたれかけ、ぼうっと沈みかけている日を眺めていた。淡いオレンジの光がアイツの顔を照らし、顔のそれぞれのパーツに深い陰影をたたえていた。
「で、琢磨は今どう考えてるの」
視線を動かさないまま、アイツはそう俺に尋ねた。
「いいのか。もしそうなら俺は……」
「いいんだ。まずは聞かせてよ。ふふ、なんだか探偵みたいだね」
その言葉に俺はさっと顔を歪ませた。お前にだけは、そう言われたくなかったよ。
「おかしいとは思ってたんだ。アリバイと動機が「わかりやすすぎる」ってね。まるで作られたみたいに完璧だ。もし別の動機だったら、もし別の人間だったら、簡単すぎるくらいに事件は成立するのにってね。だから、どっちかが違うんじゃないかって思った。動機か人間、そのどちらかがそっくり嘘なら上手くいくんだ。でも、動機はあまりにも個人的すぎる。交換殺人にしてはみんな死んじまった。そこで思い出した。「レクレーション」ってね」
橋の上は遮るものがないため、風はびゅうびゅうと俺らに容赦なく吹き付けている。アイツの少し明るい髪がなびいて、光を受けてところどころキラキラときらめいているのが見えた。アイツは表情一つ変えなかった。
「ほんとは「レクレーション」だったんだろ。そして多分、おそらく役職が入れ替わってんだろ。それで分かりづらくなってたんだよ。編集と同じ学部だったのは「部長」ではないし、彼女は「ギタリスト」じゃない。そうするだけでも随分説明がつく。気づいたのは最後、編集の部屋にギターがあったのを見たときだ。そりゃあギタリストって肩書きながら、ギターケースはそいつのものだって思うよな。でも俺は一回だって彼女自身がケースをもってきたところを見たことはないんだ。多分、あれは編集と俺らが思ってたアイツの私物で、アイツが本当のギタリストだったんだろ。そしてそいつがボウガンを持ち込んだ。アイツが示してた編集の名前は、あれは自分ではなくて自分をやったヤツの名前だったんだろ。男の名前だったのを見るに、二番目に殺された、書記と俺らが思ってたアイツが編集だったんだな。あとは後の二人が入れ替わってるとしたら、ギタリストだと思ってた彼女が部長で、もう一人が書記か。ややこしいことしやがって」
俺は苦々しげにそうこぼした。アイツは依然として表情を変えないまま遠くの方を見つめている。場にそぐわない、ひどく穏やかな表情だった。
「で、だ。でも役職が入れ替わってた程度では犯行は成立しない。入れ替わった上で順番に殺されると全員が承知していなきゃ、これは成立しない。明らかに不可能なんだよ。一人目の被害者が発見された直後にアラームを鳴らしたいなら、死んだふりをするそいつ自身が直前に準備すればいい。そうして一人が死んだふりをすれば二人目の犯行ができたように見せかけられるし、後は自分で自分が死ぬような準備をすればいい。そうすれば、あのタイミングの良いアラームやメッセージカードは説明がつく。だから、「レクレーション」。どうせそうやって、順に殺された振りをして、何も知らない俺に謎を解かせようという魂胆だったんだろ。役職が入れ替わった、誰も死んでない殺人。だから、いつまでたっても警察がこない。だってそうだ、これは「レクレーション」なんだから、初めから誰も呼んじゃいなかったんだ。いかにもミステリ好きの文芸サークルがやりそうなことだ。けど、どこかでそれが狂った。二人目と最後の殺人。あれだけは誰かが用意しなきゃ成立しない。まだ全部わかったわけじゃないが、あれだけは誰かが知った上でお膳立てしなきゃできないことだ。誰も死なないはずの「レクレーション」。なのに本当に殺人は起こってしまった。それを知った上でお膳立てができたのは、」
そこで一瞬、言葉を切る。言え、言わなきゃならねえんだ。俺はこうしてコイツに呼ばれた以上、そう言うことを初めから望まれていたのだ。言え、言え。
「豊。もうお前しかいないんだよ」
ひときわ強く、風が吹き付ける。俺の言葉以外に音はなく、まるでここだけ世界から断絶されてしまったかのような気持ちになった。そんなこと、ありっこないのに。
「死体が本当に死体だと知っているのは、実際に触れたお前しかいないんだよ。一人目から三人目まで、誰も、俺ですら実際の死を確認していない。俺が実感で理解したのは四人目が初めてだ。違和感を持ったのは、二人目のあの男の現場。俺が水を止めようとしたとき、お前は不自然に俺を止めて自分で蛇口をまわしたよな? あれの本当の凶器がボウガンだとするなら、一番始めに「死んだはず」のアイツが実は生きていてやったのだと、それが大体の筋書きだろう。でも、一人目は本当に死んでしまった。だとしたら本当に二人目を殺したいヤツが、あらかじめ何かを細工するしかない。二人目のアイツは、ボウガンで死んだふりをするために自分に細工をして、そして蛇口に触れたときに、何かの仕掛けにひっかかって本当に死んでしまったんだろう。だって、あんな血の細工をしたら、最後は手を洗わないといけないからな。それを見越した本当の犯人があそこに何か細工をしたんだろう。そしてお前はそのことを知ってて、それに俺がかからないよう自分が蛇口を閉めた。そうとしか思えない」
俺がそうまくしたてると、アイツは観念したように一つ息を吐き、静かに口を開いた。
「さすが探偵くん。いい推理だね。確かに二人目のアイツは、本当は蛇口のひねる部分につけられた小さな小さな針にさされて、その先から入り込んだ毒で死んじゃったんだ。毒はまあ、彼女の研究室から危険物を少しくすねてきたみたいだよ。流石にただの一般人じゃ用意できないけど彼女ならね」
彼女、そして薬品を扱うような研究室。ということは三人目のあの物静かな彼女が犯人だったとでもいうのだろうか。ということは、四人目の彼女が言っていた、作品の盗作というのは本当のこと。やはり、動機だけは正しいという予想はあっていたようだ。
「最後のはね、本当は窓枠に彼女がもたれかかるように座って、首から血を流しているというのがオチのはずだったんだよ。手にナイフをもって自殺にみせかけてね。でも最初の彼がそれを許さなかった。自分の部屋に細工をして、体重をかけたら簡単に外れるようにしたみたい」
アイツは柵から体を離し、こちらに背を向けて数歩向こう側に歩き出した。車通りはなく、しんとした静けさがあたりを包んでいる。
「でもね、探偵くん」
「……探偵って呼ぶな」
「あぁ、ごめんごめん。でも探偵くん、君の予想は一個だけ外れてる。三人目の彼女。彼女は本当は書記で、最後の彼女が副部長。だから、」
そしてアイツはこちらを振り返る。ぱっと両手を広げて、楽しげな顔でこちらを見つめている。
「俺が、ほんとは部長なんだ」
その言葉に、俺は息を詰まらせた。なんてやつだ。お前が、お前が部長だったのか。だったら、だったらなおさら、なぜ。
「……なんでって顔してるね。そうだねぇ、部長だから、かな。部長だから、皆の相談に乗ることが多かったんだよね」
「部長だからなんだってんだよ」
「まあまあ。……なぁ琢磨。あいつら、すっごい良い奴らだったろ。話もあうし、個性強くて、一緒にいていつまでもいつまでも飽きなかった。一年のときからそんなで、そのまま部の執行部もこのメンツでやるんだろうなって思ってた。俺の、箱庭だったんだよ、ここは。俺の、俺だけの、いつまでも楽しい箱庭だったんだよ」
語気を強めると、アイツはそのまま顔をうつむけてしまった。もうほぼ沈みかけた日が影を落として、その表情を読み取ることはできなかった。
「でも、だめだね。箱庭はいつまでも箱庭であってはくれなかった。研究室とかそれぞれ別れ始めてから、なんか上手くいかなくなっちゃった。就職のためにデータを奪ったり、将来の名声のために作品を盗んだり、そして誰かを欲しいと強く思ったり。面白いほどに、俺はそれぞれからそれぞれへの恨みを相談されたよ。殺してやりたいほどってね。ああ、だめなんだなって。もうだめなんだなって思った。俺は、俺らは、いつまでもあのままではいられなかったんだって。……そう思ったらいっそ、最後に壊してやりたいと思った。あの箱庭を箱庭のままとどめるために、最後に、もういっそ。だからこの旅行を計画して、このレクレーションを計画して、その中で偶然を装って殺してしまおうと持ちかけたんだよ。お前を騙すためって言ってね。動機はみんなで「ランダムで選んだ」ってことにしてたから、事件が明るみになっても、上手くごまかせるってね。殺し方も、ほんとは事故か自殺と言い訳できるようにしてた。皆が皆、自分だけが本当に殺すと思ってるから、互いに都合の悪いことは言わずに話をあわせるような雰囲気も出てたしね。で、あとは事情を知ってる俺が、上手くまわるようお膳立てすればいいだけ、それで上手くいくはずだったんだ」
ああ、だからこその最後の彼女の言葉か。当たりは変な味がするからあとはよろしく、とでも言ったのであろう彼女は、なんてことはない、きっと全てのコップに毒をぬったのだろう。それで実際に人を殺してしまった彼女は、もう最後まで自分の役を演じるしかないと思って……。本当は副部長だった彼女。彼女が書記のあの子を殺した理由は、確か。
「なあ、豊。副部長は、お前のことが好きだったんだろう。それで、おそらくあの動機から察するに、書記の彼女も……だから、副部長は殺したんだろう? 四年間一緒にいた友人を、お前のために」
その言葉に、アイツは驚いたような顔をすると、すぐにまた、あの泣きそうな顔になった。
「うん、そうだね。知った上で、一緒に作戦を立てたよ」
「はあ? でもお前は結果的に彼女の気持ちを裏切ったんだろ? もっとうまく言っていれば、彼女らは殺し合わずにすんだんじゃないのか?」
「……うん、そうだね。彼女は俺を好きでいてくれた。ただ、俺が臆病だっただけなんだよ。それに応える気概がなかった。ただ、それだけなんだよ、悪いのは、俺だ。彼女は悪くない」
その煮え切らない態度に、俺は腹の底からムカムカとした何かがせり上がってくるのを感じた。そして、思いのままに言葉をまくしたてた。
「だったらなんで、なんで俺を呼んだ? そして真相を話すんだ? 予感はあったが、お前がという確信はなかった。警察のことだって、あとからお前が呼ぶとか、もっと上手くできたはずだろう。こんなことまでして、俺は、お前が何がしたかったのかさっぱりわからねえ」
そんな俺の様子を見て、アイツは今度は、平時のようなにこやかな表情に戻った。そのいつも通りの様子が、今はひどく浮いて見えて、いっそ不気味なくらいだった。
「お前に、暴いてもらいたかったんだよ。探偵くん」
そうしてアイツは橋の柵に手をかけてよじ登ると、「よっと」という声と共に軽やかにその柵に腰掛けた。もちろん、柵の向こう側に体を向けて。
「もちろん、ちゃんと警察にばれないように、ってのもしっかり考えたよ? でも、やっぱり、お前に暴いてほしくなっちまった。だって、こんなの俺のわがままだ。仲良しのままでいたかったなんて、そんな子どもっぽいただのエゴだ。でも、これからの人生を考えたときに、そんな箱庭を手に入れる可能性が二度もあるとは言えないならば、たかだかこんなくだらない人生、ここで終えてしまっても良いと思ったんだよ。まあ、事の詳細は全部俺のパソコンに入ってるからさ。それ警察にもってって説明してくれよ。面倒な役頼んでごめんな。ちなみにパスワードはお前の誕生日にしといた」
「……ふざけんな、ふざけんな! ここで、俺がお前を止められねぇのはわかってるだろ。それがお前の願いなら、それがお前の描く幕引きなら、俺は、それを止められない、止めるべきでない。それがこの話のオチなんだろ。わかってるんだよ、わかってるんだよ! ちくしょう、ちくしょう、俺はお前を許さない。ここでお前が全ての罪を被って、自責的に全てを終わらせるのが正しいオチだとしても、俺は許さない。俺はお前を一生許さない!」
俺のそんな叫びを、あいつはただ静かに聞いていた。そして、今までに何度も見た、あの鮮やかな笑顔で、満面の笑みで最後に一言、こぼした。
「うん、よかった」
そうして次の瞬間、アイツの体は橋の向こうへとゆっくり落ちていった。俺は反射的に手を伸ばしたが、それは届くこともなく、ただ宙を掴んだだけだった。一瞬のうちにアイツの姿は視界から消え、永遠とも思える数秒の静寂ののち、下の方でなにかが潰れるような音がした。
俺は、その音を聞いて、膝からドサリと崩れ落ちる。無駄だとわかりながらも、握りこぶしをどんと地面にたたきつける。
「ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょう!」
事件は終わった。事件は正しく終わった。独りよがりな理由で犯行を計画した犯人は、探偵に迫られ、自分は手を下していないにも関わらず、その自責の念から命をたった。物語として、これ以上無く、明快でわかりやすく、正しい結末だ。犯人の彼が、これからその自責を抱えたまま苦しみ抜いて生きていくことと、他のあいつらと同じように地獄の底に共に落ちていくのと、どちらが正しいかなんて、そんな天秤は今の俺の手にはあまる。だから、俺はアイツの意思を尊重した。俺が探偵役としてできるのはただそれだけだった。
ああ、ふざけるなよ。だがそんなオチがあってたまるか。俺はこの物語を許さない、探偵小説を許さない、犯人を無責任に追い詰める探偵を許さない、探偵にそうあれと望む読者を許さない。アイツは俺の親友だった。紛れもなく親友だった。これからもきっと付き合い続けていくだろう友人だった。それを、そんな物語に回収してしまうのを、俺は一生許さない。「よかった」というアイツの最後の言葉が頭に響く。きっとアイツはそれを見越して俺を探偵役として呼んだんだ。アイツの、最後の悪あがき。どうか一生俺を覚えていてくれという、最後の最後のタチの悪い悪あがきだ。
ちくしょう、ちくしょう。だから、だから俺は、
「探偵小説なんてだいっきらいだ……!」
世界には音はなく、ただ冷たい風がびゅうびゅうと、静かに吹き付けていた。
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