Ⅲ-10

 あいつの部屋はすっかり片付いていて、この前までの部屋の様子が想像できないほどきれいになっている。

「ごめんね、お茶も出せない」

 キッチンの隅にゴミ袋だけが置かれている。いつでも旅立てそうだなと思った。ずっと閉めたままだったカーテンもなくなって、夕焼けのオレンジ色の光が窓から差し込んでいた。僕はこの部屋に窓があったことに驚いている。頭ではわかっているはずなのに。

「あなたにプレゼントがあるの」

 そう言ってあいつは襖をあけて奥の部屋に入っていった。そして一枚の絵を持って奥の部屋から出てくる。僕はその絵を見てあの描きかけだった絵だとすぐにわかった。

「どうにか間に合ったの。乾いてると思うけど触らないでね。額縁は先生に頼んであるから、あとで取りに行って」

 その絵は複雑な色と形が混じり合って、近くで見ると何が描いてあるのかさっぱりわからなかった。

「具象画だよね」

「そう具象画だよ」

 僕は部屋の壁に絵を立て掛けて、離れたところから絵を見てみる。

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