Ⅲ-9

 冷蔵庫の残り物で焼きそばを作った。何故焼きそばを買っておいたのかはよく覚えていない。

「いいにおい」

 風呂から出てきたエリコが焼きそばを盛った皿をのぞきこみながら言った。僕は冷蔵庫から缶ビールを出してエリコに渡した。

「ありがとう」

 すぐに缶ビールの開く音がする。

「白ごはんある」

「朝炊いたのがまだ残ってると思う」

 そうか、関西の人は焼きそばをおかずにごはん食べるんだよね。エリコは焼きそばにたっぷり紅ショウガをのせている。

「めっちゃお腹空いてる」

 エリコは相変わらずの食べっぷりに飲みっぷり。それにしてもどうしてエリコはこっちに来たんだろう。

「仕事は順調」

「順調だよ」

「何で奥さんと住まへんの」

「ここでは絵は描けないみたい」

「そしたらここに住んであの部屋に通えばええやない。あたしがどうこう言うべきことやないですけど」

 そう言ってエリコは缶ビールを飲みほした。

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