Ⅲ-4

「あたしも病気になればよかったかな」

 土産の餃子をつまみながらエリコが言う。

「丈夫にできてるんだね」

「そうかもね。たまにお腹こわすくらい」

 そう言いながらエリコは缶ビールを飲みほした。

「食べ過ぎに、飲み過ぎだね」

「やっぱりヒロさんの焼いた餃子が一番おいしい。あたしが焼くとこんなにうまく焼けないの」

「説明書通りに焼いているだけだよ」

「用事はすんだの」

「もう少しかな。買い物とかもしたいし、しばらくいてもいいでしょう」

「かまわないよ」

 少し前までは普通の日常だったのに、今はこんな会話が懐かしく感じられる。

「お酒飲んじゃったの。ジンと・・・」

「ベルモット」

「そう、そのベルモットとジン。キッチンに空きビンが置いてあった」

 気づかれてしまったようだ。エリコもちょっとは変わったのかな。多分以前なら気づかなかったような気がする。

「最近考えることが多くてね」

 エリコが僕のほうをじっと見ている。そしてニヤリと笑う。少し目が泳いでいるような気がした。そんなに酔っているとも思えない。

 僕は自分の部屋に行って、新しく買ったジンとベルモットを持ってきた。

「片方はビンが違うね」

 ジンは前と同じボンベイサファイアだけれど、ベルモットはフランス産のノイリープラットを買ってきた。もともとドライ・ベルモットはフランスが発祥らしい。

「ネットで調べたらこれがいいらしいんだ」

 僕はグラスと氷を用意し、グラスいっぱいに氷を入れた後ジンとベルモットを注いだ。そして「飲むよね」とエリコに言う。

 エリコはうれしそうにうなずいた。

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