Ⅱ-11

 大晦日の夜遅く、雪で大幅に予定が狂ってしまったけれどどうにか家までたどりついた。家の明かりが消えていて通り過ぎそうになる。あいつがいなくなった時と同じだと思った。中に入ると人の気配がない。大阪に帰ったのかな。帰らないって言ってたけれど。明かりをつけてみると家の中はきれいに片付いている。エリコのいた痕跡が見つからないくらいに。僕の部屋だけがそのままだった。温泉に行く前に言ったエリコの言葉をまた思い出した。

「いたいだけいればいいさ」

 僕はエリコにそう答えた。キッチンに行って冷蔵庫を開けると、エリコの買ったビールがまだ残っている。僕は買ってきた地鶏の肉を使って調理をはじめた。冷蔵庫に残っていた野菜を刻んだ。

「あけましておめでとう」エリコから電話が入った。

「帰ったの」

「友だちがはじめた仕事を手伝うことにした。言ってなくてごめんね」

「本当はもう少し先のつもりだったの」

「そう。安心した」

「心配してた」

「ちょっとね。でも、家の中を見たら何となくわかったから」

「休みが明けたら、一度そっちに戻るね。手続きとかいろいろあるから」

「わかった」

「また連絡するから。もう少しお世話になります」

 何かが動きはじめたのを感じた。僕はキッチンの後片づけをしてから、散歩で立ち寄る神社に出かけた。近くまで行くと明かりが漏れていた。人がたくさん出ている。甘酒を配っている人がいた。どうやら氏子さんらしい。手洗い場には柄杓が置かれ水が出ていた。朽ちかけていた箱とは別におみくじの箱も用意されている。お参りして手を合わせると不安が消えたような気がした。

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