Ⅱ-7

 そろそろ秋が深まってもいい時期なのに、中途半端に色づいた木々が、秋の深まりを感じさせないまま、日々だけが過ぎていた。

「いつまでたっても暑いね。また台風が来るみたい」

 めずらしくエリコが散歩についてきた。たしかに風強くなっているような気がする。

「また電車が止まったり、めんどくさいよね」

「そうだね、それてくれればいいんだけど」

 そう言ってぼくは空を見上げた。雲が流れていく。

 エリコはベンチから立ち上がり歩きはじめた。僕もエリコにあわせてゆっくりと歩いていく。いつも通り神社の境内のほうに向かっていた。木々のおおわれて木漏れ日さえない神社の境内は、薄暗くひんやりとしていた。

「ねえ、おみくじひいてみない」

「あるかな」

「あるよ。ひいたことないの」

「ひいたことない」

 都会にひっそりと佇む神社。人の気配はなく、お清めの水も止まったまま。朽ちかけた木箱にかすかにおみくじの文字が残っていた。

「おみくじひくなら、橋の向こうに行かないと」

 僕はエリコにそう言ったあと、賽銭箱に小銭を投げ入れお参りした。

「何をお願いしたの」

「何も。願い事はしない」

 そう言えば僕は、神社に行ってもお寺に行っても、願い事をしたことはなかった。お参りすることが目的なのだろうか。そもそも神社やお寺に行く目的って何なのだろう。エリコはじっと手を合わせている。

 神社を出た後エリコと僕は、いつもの橋を渡らずに上流に向かって歩いていく。

「何もないんだね」エリコにとってはちょっとした冒険のつもり。

 当てが外れてがっかりしていた。たしかに何もないところだ。変化のない風景が愛想なくつづいている。結局僕とエリコは次の橋まで歩いて川を渡った。

「人だけが渡れる橋なんだ」

 遊歩道やベンチのある橋はエリコの冒険心をやっと満足させたようだった。欄干からゆったりと流れる川を眺めている僕とエリコの後ろを自転車が通り過ぎた。

「あそこならおみくじあるかな」橋を渡った先にある塔を見てエリコが言った。

「凶が多いらしいよ」

「そうなの」

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