Ⅰ-11

 この暑さは永遠に続くのではないかと思われた十一月のある朝。急に冷たい北風が吹きはじめ、一気に秋を通り過ぎて冬がやってきてしまった。家にコートを取りに帰るとドアに鍵がかかっている。しかたなく自分の持っていた鍵で家の中に入り、コートを捜したけれど、どこにあるのかさっぱりわからず、スーツには合わないジャンパーをつかんで外に出た。

 駅の周辺や電車の中には、僕と同様季節の変化に対応できずにいる人がたくさんいた。何となくホッとした気分になったのだけれど、なんであいつはあの時すでに家にいなかったのだろう。出かけるなんて言ってなかったのに。それに出かけるにしても早すぎる。

 いつもと変わらない朝だった。家の中にいる限り、まだ外の寒さは入り込んでいなかった。

「今日は少し寒いかな」

「そろそろ変わってくれないとね」

 あいつとこんな会話をした。そんな感じだった。朝のテレビでも急激な気温の変化については何も言っていなかった。

 帰宅する頃はさらに寒くなっていた。仕事を終えて急いで家へ帰る。そろそろ家の中も冬支度をしなくちゃなんて思いながら。まあ自分がやらなくてもあいつがやってくれているはずだけど。

 家に近づくと何となく様子がおかしいと感じた。家の前を通り過ぎそうになった。ついているはずの明かりがついていない。

 朝と同じように自分の持っている鍵で玄関のドアを開ける。いったい何が起こっているのか。家の中は暗く寒々としていた。僕はあわててケータイを取り出してあいつに電話をかけてみる。応答はなく僕は電話を切った。

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