Ⅰ-7
とにかくわけのわからない夜だったような気がする。現実だったのかどうかさえわからない。気がつくと僕はゲイバーにいた。
花火を見た駐車場のビルを出てから、どこをどう通ってきたのかはよくわからない。記憶の断片と狂ってしまった方向感覚。いくつか見覚えのある場所を通過した。大阪天満宮に行くと言っていたようだったけど、実際は天満宮のほうに向かっていただけらしい。社長さんと幼稚園の先生が僕の近くで何やら話をしていたようだったけれど、どんな話をしていたのかははっきり覚えていない。社長さんがしきりに楽器の話をしていたような気がする。幼稚園の先生は楽譜の話をしていた。
南森町のあたりで大通りを横断すると大きな公園に出た。公園内をショートカットして道なき道を進んだ。無理やり植え込みの間を通り抜け、池のふちを歩いてグラウンドを横断した。通りに出て学校の校舎を横目に見ながら歩いた。気がつくと盛り場の路地を歩いている。お迎えに来ていたゲイバーのママがヨーコさんを呼び止めた。
店の中は混んでいて、カウンターの席にばらけるようにすわった。居心地はそんなによくはなかったけれど、帰りたいとも思わなかった。酒を飲んでタバコをふかし、しかたなくおねえさんたちと話をする。カズさんたちは知り合いもいたらしくすっかり溶け込んでいた。
ふと気づくとヨーコさんがカラオケで歌っている。
「普通に歌えば悪くないんだけどね」
社長さんが歌を聞きながらそう言った。
「まねしようとするから」
そろそろ帰るという時に、ケータイを見た。思ったほど時間がたっていない。店を出て路地を抜けて大通りに出てみると、見覚えのある場所だった。よく利用していた梅田のカプセルホテルのビルが見えた。僕は自分の辿ってきた道と現在いる場所が結びつかずに混乱している。
社長さんと東京から帰省していた人はJRで帰ると言って駅に向かって走っていった。僕は残った人たちと地下鉄の駅に向かう。僕は千日前のカプセルに泊まっていたのでなんばまで行くのだけれど、カズさんとヨーコさんと幼稚園の先生は淀屋橋で乗り換えて京阪で帰るようだ。僕は淀屋橋で降りる三人と握手をして別れた。カズさんはメールをくれると言っていたけど、結局メールは届かなかった。
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