Ⅰ-6

「ねえ、何でウナギなの」

「牛丼屋に旗が立ってたでしょう」僕はやっぱりそうかと思った。

「でも、せっかくウナギ食べるんなら、うなぎ屋に行こうよ」

「それもそうだね」

 エリコとぼくは橋のたもとで傘を持ったまま立ち止まっている。

「霞んじゃってよく見えない」

 エリコがつぶやく。

「行こうか」ぼくはそう言って橋を渡り始めた。

「いいとこ知ってるの」

「まあね」

 エリコがぼくの後をついてくる。エリコのペースに合わせて、ゆっくりと橋を渡った。橋を渡り終えて緩い下り坂を降りていくと、一本下流の橋から伸びている大通りにぶつかる。その少し手前にうなぎ屋があった。

 昔ながらの木造の建物で外見は決してきれいとは言えないけれど、その佇まいからは江戸の風情を感じることができる。

「レトロだね。いい感じじゃないの」

「住吉大社の近くのうなぎ屋知ってる」

「知ってる。チンチン電車の待合所の近くのうなぎ屋でしょう」

「あそこはもっとレトロだよ。あそこも好き」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る