Ⅰ-5

 ビルの隙間からチラリと見える花火。絶え間なく音だけが響いている。とあるバンドのライブで何度か一緒になって知り合いになったカズさんとヨーコさんに天神祭りに誘われた。メジャー落ちしてしまったバンドは、デビュー前にお世話になったライブハウスでまだ日も暮れない午後にスタートするライブを行っていた。二部構成でたっぷり、ファンにとってはこの上もなく贅沢なライブで、バンドとファンが作り出す一体感は絶頂に達していた。

 こんなライブはそうそうあるもんじゃない。ライブが終わってから、カズさんとヨーコさんが声をかけた人たちと電車を乗り継いで天満橋の駅に着いた。あたりは人であふれていて歩くことさえままならない状況。そんな中、背の高いカズさんを見失わないように必死でついていった。どうやら橋を渡っているようだった。川のほうに目をやると、提灯で飾られた船が見える。もうすっかり暗くなっていた。橋を渡り終えると、大通りから離れて、一本裏の通りを歩いた。人は少しばらけてきた感じがしたけれど気は抜けない。カズさんの頭を目指して歩いていく。ほかの人たちもまわりにいるようだった。しばらくして僕たちは駐車場になっているというビルの前にたどり着いた。

 これから屋上まで上がっていくようなのだが、どうやら連絡がうまくいっていなかったようでビルの入口が閉まっていて入れないらしい。ヨーコさんがビルのオーナーと何やら電話で話をしている。僕はほかの人たちとビルに背を向けてぼんやりと通り過ぎていく人をながめながら、入口が開くのを待っていた。

 浴衣を着た女の子のグループやカップル。みんな僕たちと同じように疲れた顔をしている。しばらくしてビルの入口が空き、僕たちは屋上にある倉庫のような建物の上まで登った。そして思い思いの場所に腰をおろし、乗り換えをした駅のデパ地下で買った弁当を食べ、缶ビールを飲んでいる。

 完全に当てが外れたようだった。この建物の上まで上がっても視界は目の前のビルに遮られてしまっていて花火はほとんど見えない。チラリと見えただけで歓声が上がった。

 カズさんとヨーコさんの他にはライブで何度か会っている青いつなぎを着た社長さん。東京から帰省してきているというカズさんとヨーコさんの友人の男性。それから幼稚園の先生をやっているという若い女性。社長さんと幼稚園の先生はカズさんとヨーコさんが最近始めたバンドの関係者のようだ。

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