Ⅰ-3

 駅のホームでコートの襟を立てて電車を待っている。今日はとりわけ寒く雪もちらついている。ホームには人はまばら。朝と夕方以外はそれほど乗降客の多い駅ではない。人身事故の影響で電車が遅れているらしい。そもそもこの駅には各駅しか止まらない。大都会からさほど離れていないのに、エアポケットのようにひっそりしていた。これだけ遅れていると、電車はかなり混んでいるかもしれない。各駅なので多少楽観はしているけれど、なんかめんどくさい気分になってきた。

 僕は空いているベンチをさがして腰を下ろした。ベンチはすっかり冷えきっていて、その冷たさが体を突き抜けるのを感じた。

 「暫しの辛抱」ひとりごとをつぶやいて、チラリとひとつ置いてとなりにすわっている人を見た。つまらないひとりごとを聞かれてしまっただろうか。若い女性のようだった。寒さのせいか、両手をコートのポケットに突っこんで背中をまるめ前かがみになっている。もしかしたら寝ているのかもしれない。あまりじろじろ見ていてはと正面を向いた。多分自分も彼女と変わらない格好で寒さに耐えているんだろう。お尻の冷たさは少しづつやわらいでいた。

 突然ドスンと音がして、その振動が僕のお尻に伝わってくる。となりを見ると若い女性がベンチに倒れ込むようにして横たわっている。僕は女性の顔をのぞきこんだ。あの勢いで倒れてもまだ寝ているようだった。しかたなく僕は彼女を起こして隣に移動し、彼女の体を支えるようにすわりなおした。彼女の顔をよく見てみると見覚えのある顔のように思えた。どこで会ったんだろう。多分この辺でもないし、最近でもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る