Ⅰ-2

 まだ朝だというのに、ほんのりと酔ってしまった。今日は休日だし、まあいいか。普段飲んでないせいかすぐに酔ってしまう。それでも、ゆっくりじっくり飲めばかなり飲める。まわりのペースに惑わされてピッチを上げると、すぐにギブアップ。

 そして「なんでそんなに弱いの」と笑われてしまう。こうして一人で飲んでいるのが一番良いのだろうか。

 こんな季節には、ちょっと湿っぽいボサノバがいい。マリア・クレウーザの「おもちゃにしないで」とか。音楽でも流しながらもう少しぼんやりしていようと思ったら、キッチンのほうでざわざわと音がした。

「ねえ、朝ごはん食べたの」

「もう起きたの」エリコの眠そうな目。

「まだ寝てない。シャワー浴びただけ」

「食べない方がいいんじゃない」

「食べないと寝れないのよ」

 エリコはパジャマを着ている。朝ごはんには違いないけれど、僕とエリコでは少しばかり事情が違っている。

「マスターが朝まで居ていいって言ってくれて」

「そうなんだ」

「めずらしいね、飲んでるの」

「ちょっとだけね」

 スクランブルエッグにウインナーをつけて、大皿に海藻サラダ。海藻サラダは水につけておけばいいので、手間がかからなくて重宝している。

 そういえば誰かが「海藻食べていれば死なない」と言っていたのを思い出した。

「誰だっけ」エリコに聞いてみた。

「知らないよ。そんなことはじめて聞いた。でも体には良さそうだね」

 ノンオイルドレッシングにココナッツオイルをかけて食べる。冷たいサラダにココナッツオイルをかけると固まってしまうけど、固まったココナッツオイルのパリッとした食感も悪くない。

「ポン酢でもいいかも」

「ヒロさん最近よくポン酢使うよね。野菜炒めにもかけてたでしょう」

 エリコはマグカップの中のコーンスープに粉チーズをたっぷり入れてパンを浸して食べている。

「すごい食欲だね」

「だって、本当にお腹すいてるんだもん」

「何も食べなかったの」

「ひたすら飲むだけ」

「ヒロさんは健康的過ぎるんだよ。あのお酒まだ残ってるんでしょう。ジンと・・・」

「ベルモット」

「そう、ベルモット」

 ぼんやりとした休日の朝のはずだったのに。突然あわただしくなってしまう。エリコは食べるだけ食べて自分の部屋に入って寝てしまった。結局後片付けは全部僕がやることになる。

 この雨では出かけられないかなあ。

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