第48話 カラス

 九条菜々花くじょうななかは、夕食の買い出しにスーパーへ来ていた。


(今日は中華の気分だ。青椒肉絲チンジャオロースにしよう)


 ピーマンや豚肉をカゴに入れるとお菓子コーナーが目に入る。引き寄せられるようにスナック菓子の前に来た。


(やっぱポテちんはのり塩味が定番だよねぇ……あれ?期間限定わさび醤油味だとぉ!これは悩むなぁ……うーん、どうしよぉ……)


 優柔不断を発揮して、どれくらい経っただろうか……ようやく会計を済ませて帰路に着いた。(マイバッグには、食料品と一緒にポテちんが2種類入っていた)


 夕食を作り終えて、ポテちんわさび醤油味の袋を開けた時だった。


 ピロリン♪


 SNS グループチャットの着信音が鳴った。


 ボクは、ポテちんを頬張りながら父に借りているスマホを開いた。


(誰だろ?)



『やあ、学園祭実行委員会の皆。私はDr.ペストだ。3丁目の雑木林ぞうきばやしの大木に、面白いを置いてきた。是非、見に行くといい。ではまた……』



 ぞくり……



 ボクは、全身に鳥肌が立った。

 嫌な予感しかしなかった。エプロンを外すのも忘れ、家を飛び出した。


 雑木林に着いた頃には、陽もだいぶ傾き薄暗くなっていた。

 生い茂る木々は、まるでボクを囲むように不気味な影を作り出していた。


 ふと空を見上げると、やけにカラスの集団が集まっている場所がある。


 耳障りな鳴き声は、乾いた笑い声にも聞こえた。


 ボクは、自分の身長程の草をかき分けてその方向へ進んだ。




 は、その場に立ち尽くしていた。

 微動だにせず、ただを見ている。

 そして、目をつむり深呼吸をした。


 カサカサと草をかき分ける音が聞こえた。


 誰か来る!


 男は、音のする反対方向へと走り去った。

 雑木林から出ると、軽トラックへ乗り込んだ。

 塗料の付着した白いつなぎの袖を捲り、くわえた煙草に火をつけた。





 天音琉空あまねりくは、生い茂った草場を抜けると、大木にたどり着いた。


 ギャー……ギャー……


 大木の枝に、数十羽のカラスが止まり不気味に鳴いている。


(一体、何なんだ……?)


 カラスに警戒しながら、落ちた枯れ木をパキパキと踏み大木の周りをゆっくりと半周した。


 そして、を見つけた。


 琉空は、全身が震えた。


 おもむろにスマートフォンを取り出しカメラを起動する。

 震える手を沈めシャッターをきった。


 何度も何度も何度も………


 琉空の下腹部は、固くなり激しく脈を打った。息は徐々に荒くなり、抑えることの出来ない欲望が爆発し……やがて、果てた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 琉空は、力尽き、ガクガクと震える膝を地面についた。


 その表情は、恍惚こうこつに満ち溢れていた。




 ボクは、生い茂る草木で手をすり切りながら、大木へ辿り着いた。


 そして、天音琉空が目に入る。

 明らかに様子がおかしい……

 

「琉空ちゃん!大丈夫?一体何が……」


 ボクはがく然として、気が遠くなった。



 大木の枝から、ロープに首を掛けられた神山千春かみやまちはるが紫色の顔で脱力していた。

 腹部は引き裂かれ、中身がぢゅるりと垂れ下がっていた。



「いやあああああああああ……」



 雑木林に、ボクの叫び声が響き渡った。


 に群がるカラス共は、人間を馬鹿にするような醜い笑い声をあげていた。


 まるで、Dr.ペストのように……






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る