第47話 三人目の犠牲者


 神山千春かみやまちはるは、九条菜々花くじょうななかの「Dr.ペストが仲間の中にいる」という考察に驚きつつも、理にかなっているがゆえに納得していた。


 必ず、妹の仇を打つ!


 千春は、申し訳ないと思いながらも、メンバーひとりひとりを監視していた。ひとりでは心許こころもとないので、桃子の担任教師 徳山杏子とくやまきょうこに協力して貰った。


 メンバーそれぞれの、休日の過ごし方は、こうだ。



 親友の國枝彩希くにえださきは、午前中お茶の教室へ通い、帰りにスーパーで買い物、そして帰宅し、夜は家から出ない。



 九条菜々花くじょうななかは、朝は家事。洗濯物を干す姿がマンションのベランダに見える。

 午後からは、公園でのんびり過ごす。ベンチで、鳩に餌やりをしている。帰りに、スーパーへ寄り帰宅。その後、父 竜之介りゅうのすけが帰宅。

 21:30には、部屋の明かりが消える。



 乙羽野おとわのキリトは、午後になると外出する。

 大抵、図書館へ行き、本を読んだり、自作の小説を書いたりしている。夕方帰宅すると、夜中まで電気が着いている。寝るのは1:00頃。



 伊集院継治いじゅういんつぎはるは、ほぼ家から出ない。

 出るとすれば、夜にコンビニへ行き、お菓子やジュースを買い込み帰宅。やはり夜中まで起きている様子。


 天音琉空あまねりくは、午前中から自転車でウロチョロ街を探索する。昼には河原で休憩し、また午後も自転車でうろつく。恐らく、何か面白い事が起きないか、探しているのだろう。



 菜々花の父親 九条竜之介くじょうりゅうのすけと、黒崎守くろさきまもる刑事については、自動車で移動している為、監視する事が出来なかった。しかし、仕事中にDr.ペストになる事は、難しいだろう。

 そう考えた。


 ハッキリ言って、全員どこも変わった様子もなく、不審な動きもなかった。

 菜々花の考察が間違いであって欲しい。そう、願った。



 千春が、買い物をして帰宅途中にSNSの着信が鳴った。



『神山千春、毎日ご苦労さま。ワタシを探しているのかい?今から3丁目の雑木林にある、大木まで来ないかい?……会ってあげてもいいよ』




 千春は、鬼の形相になっていた。


 絶対に許さないっ!!


 必ず捕まえるっ!!


 千春は、Dr.ペストの待つ3丁目の雑木林へ向かい走り出した。


 着いた時には、汗ばみ息が荒くなっていた。しかし、歩みを止める事はない。

 手入れもされていない草木をかき分け、雑木林の中央にある大木にたどり着いた。


 しかし、奴の姿は見当たらない。

 辺りをキョロキョロと見回している時だった。


 スーッと、首元に何かが掛かった。


 「えっ!何これ?ロープ?」


 ロープは、千春の首をギュッと締め上げた。

 そして、そのまま上に引っ張り上げられていく。


 千春は必死に藻掻もがいた。


 両手を、首とロープの間にねじ込み隙間を作ろうとしたが、爪が剥がれてしまった。


 そして、遂に両足は地面から離れた。


 大木の太い枝の上に、奴がいた。


 Dr.ペストは、千春を引っ張り上げる腕の力が限界を超え、プルプルと震え出した。

 すると、ロープを持ったまま、華麗に地面へと飛び降りた。

 そして、ロープの末端に作っておいた輪っかを、太い倒木に掛けた。


 千春の首は、更にキツく締め上げられ、足も地面から遠のいた。


 Dr.ペストは、ふぅーっと深呼吸をすると、苦しむ千春の前へ立った。

 千春は、徐々に意識が遠のいてゆく。


 そんな中、Dr.ペストは自ら仮面に手をかけ、ゆっくりと外した……




 っ!!



「お、お前がDr.ペスト……なんで……だ……クソ……絶対に許さ……ウグッ」


 Dr.ペストは、必死に吠える千春の腹部にナイフでスッっとを入れた。


 そして、仮面を被り直すと、千春に手を振り、生い茂る草木の方へと消えていった。



 千春は……動かなくなった。



 

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