第46話 きっと大丈夫


 翌日の登校日、学園祭実行委員会はいつものオープンテラスに集まっていた。

 神山桃子かみやまももこの事件で学園祭は中止となったが、元々仲の良いグループ。

 そして何故か、今となってはDr.ペストに狙われているグループ……。

 今回集まったのは、勿論関瑠羽太せきるうた失踪の件だ。



「ぼ、ぼ、僕も電話を掛けてみたけど留守番になったよ」


 伊集院継治いじゅういんつぎはるが、珍しく一番に口を開いた。


「オレも掛けたけど、やっぱり出ないよ……」


 乙羽野おとわのキリトの電話も空振りだったとの事だ。


 少しの間、皆 沈黙した。


 学食で、食事を楽しむ学生達の賑やかな声が、やけに耳障りだった。



 沈黙を破ったのは、天音琉空あまねりくだった。


「てか、瑠羽太がいない間やけに静かだったじゃん。Dr.ペストは、ワザ動かなかったのか?もしくは、瑠羽太が……って」


 九条菜々花ボクの耳がピクリと動いた。


「ちょっと待てよ、琉空。そういう事は……」


 キリちゃんは、ボクの顔をチラチラ見ながら琉空ちゃんの話を遮った。


「なんだよ!俺は仮定の話をしただけじゃん!大体にして、この中にDr.ペストがいると言ったのは菜々花じゃん!」


 神山千春ちぃちゃんは複雑な表情で俯いた。

 しかし、直ぐに顔を上げて


「まあ、何も起きないのが1番よ!」


 と、微笑んだ。


「瑠羽太の事は心配だが、とりあえずオレ達は待つ事しか出来ない。アイツを信じよう!きっと、その内何事も無かったように帰ってくるさ!」


 キリちゃんは、人差し指で眼鏡を直すと白い歯を見せた。


「そうだね……。あ、皆 帰りにカラオケに行かない?暫く行ってないし」


 國枝彩希さきねぇの提案に、皆 賛成した。


 6人で暗く過ごしても仕方がない。

 ボク達は、るぅちゃんがいつ戻ってきても良い様に、いつもの仲良しメンバーに戻った。




 いいねぇ……

 楽しいよねぇ……

 仲良しだよねぇ……

 さあ、次は誰にしようかなぁ……?




「菜々花!……」


 中庭の植え込みの影から菜々花を呼んだのは、塗料の付着した白いつなぎを着た父九条竜之介くじょうりゅうのすけだった。




「おーい、皆!」


 そして、渡り廊下から挨拶してきたのは黒崎守くろさきまもる刑事だった。


 思わぬ二人の登場に、6人は面を食らった。



「あれ?パパ!なんで学校に?」

 ボクは、小走りでパパに駆け寄った。


「なんで?って……昨日話したじゃないか。学校から仕事の依頼があったんだよ」


 ボクはハッとした後、苦笑いをした。


「ごめんよ、忘れてた」


 パパは、優しく微笑んだ。


「あ!今から、皆でカラオケに行くんだ。夕食、先に済ませていいからね、パパ」


「分かった。楽しんでおいで」


 竜之介パパは、皆に会釈をするとその場を立ち去って行った。



「黒崎刑事……どうして学校に?」


 ちぃちゃんが、不思議そうに尋ねた。


「どうして?って……勿論仕事さ。桃子さんと、美井の件でね」


 黒崎刑事は、少しバツの悪そうな顔で答えた。


「あ!そっか。ごめんなさい、桃子の姉なのにおかしな質問しちゃった」


 ちぃちゃんは、赤面して笑顔を取り繕った。


「では、今から校長先生に会うので。皆、気を付けて帰ってね」


 黒崎刑事は、冗談っぽく敬礼をして去って行った。




「お、お父さん、優しそうだね。なな、何の仕事してるの?」


 継ちゃんの質問に、皆、耳を傾けた。


「うん!優しいよ。あれでらしいけどぉ。お仕事は塗装屋さんだよ。学校から壁塗りの依頼があったんだってぇ」


 ボクは、自慢げに答えた。


 その後、カラオケへ移動して皆と楽しく過ごした。


 桃ちゃん、きっとココにいるよね?


 るぅちゃんは、きっと東京で迷子にでもなってるんだよね?


 ボクは、深く考えない事にした。

 ……いや、こんな時だからこそ、ポジティブ思考でいようよ決めた。




 




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