第40話 聴取

『Cafeるしえる』に、オレンジ色の西日が射し込んできた。


 九条菜々花ボク達は、自らの……いや、このメンバー全員の疑いが晴れる事を願い黒崎くろさき刑事に聴取をお願いした。



「では早速だけど、聴取……というか質問を始めさせてもらうよ」

 黒崎刑事が、胸のポケットからメモ帳を取り出した。警察手帳というやつだ。


「まずは琉空りく君、桃子ちゃんの遺体が届けられた時……何故神山家の近くにいたんだい?」


「あー……桃子に借りていた歴史のノートを返し忘れてたから家に行きました。そしたら、千春ちはる先輩の悲鳴が聞こえて……」




「では、菜々花ちゃん。Dr.ペストと公園で会い、話をした証拠はあるかい?」


「はいっ。本当はレコーダーに録音しようと思ってたんだけど、アイツは口を開かなくて個チャで会話してきたんです。だから、声はないけど個チャのやり取りならあります」


 ボクは、そう言ってDr.ペストとのやり取りを皆に見せた。

 皆、テーブルから身を乗り出してスマホの画面に釘付けになった。



「お仕事中にごめんよ。瑠羽太るうた君は、奴と会った証拠はあるかい?」


「あー、ハッキリ言って……ない……です」


 黒崎刑事は、「大丈夫大丈夫」と言って笑顔を見せた。


「では、彩希さきさん。学園祭実行委員会に何故このメンバーを?3年生がもっといたんじゃない?」


「はい。それは、生徒会の決まりで……引き継ぎという意味合いで2年生を招集しなければいけなかったんです。それに、このメンバーは結束が硬いし、他に2年生の知り合いがいなくて……結果的に迷惑を掛けてしまってごめんなさい……」


 彩希姉ぇは、蚊の鳴くような声で俯きながら謝罪した。


「彩希姉ぇのせいじゃない!皆、この会に誘われて喜んでいるんだよ」


 ボクの言葉に、皆同意して彩希姉ぇに感謝を述べた。


 黒崎刑事の聴取は続く。


「キリト君は、病院帰りの瑠羽太君と公園で会ったと聞いてる。ヤツは、キリト君が帰った方向から公園へ来て瑠羽太君を襲った。帰り道で奴とすれ違ったり、または怪しい人物を見たりしてない?」


「はい、すみませんが……誰ともすれ違ってません」



継治つぎはる君は、最初の犠牲者城田加奈子しろたかなこさんと同じ中学で、話したことはないと言ってたけど、彼女の友達とか知らないかな?」



「あ、あの……ボボ、ボク……い、いじめにあってたので、と、友達ひとりもいなかったし……ク、クラスも違ったのでわ、わかりません。す、す、すみません……」


「そっか、皆ありがとう!」


 黒崎は手帳を閉じた。この中に嘘をついている殺人鬼が二人もいるとは正直信じられなかった。

 ただ……手に汗が光り、眼球の動きがおかしい人物がひとりいた。しかし……それが嘘によるものか、緊張によるものかはわからなかった。


「あとは神山千春かみやまちはるさんだね……ひとりで危険なことをしないといいんだけど……」


 黒崎の言葉に、皆 不安を覚え黙り込んだ。


「黒崎刑事、あの……パパのアリバイはボクが探ります。絶対Dr.ペストじゃないと証明してみせます!」


 ボクは、氷の解けた薄いオレンジジュースを飲み干した。








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