第36話 キリトの提案

 気まずい雰囲気を、神山千春かみやまちはる自らが壊した。


「大丈夫だってば!私はへこんでる暇なんてない。桃子の仇を討つために、情報は多い方が有難いからさ。しかし驚きだよ、この中に桃子を殺して……私達を嘲笑あざわらってる奴がいるってことでしょ?!」


 國枝彩希くにえださきは、千春の元へ駆け寄り、ギュッと手を握りしめた。


 千春は、大丈夫だよと言わんばかりに微笑んで見せた。


「んで、菜々花ななか……他にわかったことはあるの?」


「ごめん、ちぃちゃん。今のところは……」


 九条菜々花ボクは、申し訳なさげに俯いた。


 ちぃちゃんは、優しく微笑んでボクの頭を撫でてくれた。

 そして、皆の顔をひとりひとり強い眼差しで見た。


「この中にいるDr.ペストとその共犯者……私はお前達を絶対に許さない!覚悟しておきなさい!……て、事で。じゃあ……またな、皆」


 ちぃちゃんは、怒気がみなぎる眼光から一転、コロッといつもの笑顔に戻り、公園から立ち去って行った。


 そしてまた、しばらく沈黙が続いた……


 このままではいけない。

 皆、そう思っていた。


 乙羽野おとわのキリトは、人差し指で眼鏡を直すと、ある提案をした。


「このままだと……何も始まらない。菜々花を信じるも信じないもそれぞれだが……とりあえず黒崎くろさき刑事にお願いして、皆それぞれの事情聴取を全員の前で行うというのはどうだろう?勿論、揉めるのは無しで……」


 キリちゃんの提案に、全員が賛成した。


「あっ!」


 関瑠羽太るぅちゃんが、何か思い出した様子で、アタフタとポケットからスマホを取り出した。


「悪りぃっ!今日バイトあるの忘れてたっ!日にちとか、場所決まったら連絡くれっ!じゃあな!」


 そう言い残し、猛ダッシュで自転車に乗り、去って行った。


 それを見たボク達は、張り詰めていた空気が少しだけ萎んだ。


 天音琉空りくちゃんとボクは、顔を見合わせてクスリと笑った。


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