第37話 Cafe

 

 この街の小高い丘の上に、小さな喫茶店がある。『Cafe るしえる』知る人ぞ知る珈琲の銘店で、ファンも多い店だ。白塗りの壁に木製のドア、赤いサンシェード。まるで欧州の田舎町にありそうな異国情緒じょうちょ溢れる外観だ。店内はカウンター席が4つ、4人がけが2席、それとウッドデッキのテラス席もある。そこからはこの小さな街を一望できる。

 カウンターの後ろの棚には、所狭ところせましと並んだ珈琲豆とおもむきのある珈琲ミルが置いてある。珈琲をオーダーした客は、マスターが海外で買い付けた様々なカップの中から好きなものを選び使うことが出来る。


 マスターの濱田はまだは、40代で長身、口には髭をたくわえ、白髪混じりのオールバックが似合う色気のある男だ。


 そんな喫茶店で、関瑠羽太せきるうたはウェイターのアルバイトをしている。


(やべえな……完全に遅刻だ……)


 瑠羽太にとって、濱田は憧れの存在であり、遅刻なんかで迷惑を掛けたくない。


 自転車を飛ばし、小高い丘を立ち漕ぎでフラフラと進んだ。


 喫茶店の裏に自転車を停めると、荒い息を整え扉を開けた。


 ちりんっ……とドアに付いている鈴の音が鳴る。


「いらっしゃいま……おぉ、瑠羽太か、遅かったな」


 濱田は、笑顔を見せた。


「すみません!」

 瑠羽太は頭を下げると、カウンターの裏へと向かう。


(お客さん結構入ってるな……)


「おう、瑠羽太!おせーぞ……遅刻とか仕事舐めてんじゃん?」


「え……?」


 そう、声を掛けたのは天音琉空あまねりくだ。


「は?……なんでお前がいるんだよ?」


 よく見ると、席を埋めているのは千春を除くメンバー5人と黒崎刑事だった。


「うおっ!お、お前ら!……てか、なんでココでバイトしてる事知ってんだよ?」


「えへへっ、前に菜々花二人でとお前の後を着けた事があるんじゃん……」


 琉空ちゃんは、ニヤニヤしながら答えた。


「ク、クソ……ストーカーかよっ」


 顔を赤らめたるぅちゃんを見て、皆ゲラゲラと笑った。


「ユニークな友達じゃないか。さあ、早く着替えておいで」


 マスターに促されると、るぅちゃんは顔をしかめて裏へと向かった。


 待っている間、國枝彩希さきねぇは、綺麗に並べられたカップを興味深く見ていた。


「興味あるのかい?どうだい、中々のセンスだろ?」

 マスターは、彩希姉ぇに微笑みかけた。


「ええ、とても素敵です」

 彩希姉ぇは、頬を赤らめていた。

 マスターは、とても温かく優しい笑顔をする男だ。


 制服に着替えたるぅちゃんが、カウンター出てきた。

 白いシャツに黒のギャルソンエプロン。普段の彼から、想像も出来ない格好だ。


「うわぁ……るぅちゃんカッコイイ!」


 九条菜々花ボクは、目をキラキラさせてオレンジジュースのストローをカチカチと噛んだ。


「なかなか似合うぞ」

 乙羽野キリトキリちゃんは、にこやかな笑顔で褒めた。


「うるせー」

 顔を赤らめたるぅちゃんは、グラスを磨き始めた。


 ボクは、こんなやり取りをしていると、高校に入学した時のことを思い出す……いや、ボクだけではない……ここにいる全員がそうだろう。




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る