第35話 不協和音

 皆、明らかに動揺していた……。


「本当は、話そうかどうか迷ってたんだけど、皆を混乱させても、皆に危険が及ぶよりは全然いいと思って……」


 天音琉空りくちゃんが、素早く立ち上がると怒りをあらわにした。


「菜々花!冗談じゃ済まないじゃん!殺人鬼がこの仲間の中にいる……しかも二人もって……そんなこと信じられるかよっ!」


 乙羽野キリトキリちゃんが苦笑いを浮かべ、琉空ちゃんの袖を軽く引っ張った。


「まあ落ち着いて。確かに突拍子もない話だけど、桃子のことがあったんだ……菜々花が冗談なんて言うわワケないさ。それに、話の辻褄も合う」


 関瑠羽太るぅちゃんも、スっと立ち上がった。


「確かに混乱するけど、俺は信じるぜ。ていうか、この中じゃなくて黒崎くろさき刑事と徳山とくやま先生ってことも考えられるんだろ?」


 ボクは、るぅちゃんと目を合わせずに答えた。


「それは……ないと思う。てゆうか、ない」


「え?ど、どうして?」


 皆、不思議そうにボクの顔を見ている。


「桃ちゃんが、殺ろ……あ、えっと……酷い事されている時間帯は、美井びい先輩の事件で二人共学校から出てない。現場検証とか事情聴取とかがあっただろうから。それに、共犯者という線も薄い。思い出して欲しいんだけど、動画の人物はウチのジャージを履いていたから……」


 沈黙を裂くように、冷たい風が枯葉を鳴らした。


「あ、あの……な、菜々花ちゃんのお、お父さんは何故容疑者なの?」


 伊集院継治つぎちゃんが、小さく手を挙げ尋ねてきた。


「それは、ボクがDr.ペストのことをパパに話していたし、アリバイもないので……一応容疑者なんだ……でも、ボクのパパはそんな人じゃないと信じてる」


 すると、また琉空ちゃんが突っかかってきた。


「おいっ!じゃあ何か?俺たちはってか?だいいち菜々花が犯人かもしれないじゃん!皆を混乱させてさ……」


「てめぇ!何言ってんだコラ!」


 るぅちゃんが、琉空ちゃんの胸ぐらを掴んだ。琉空ちゃんもすぐに掴み返す。


瑠羽太るうた、お前もじゃん!Dr.ペストと戦ったとか言ったよな?……お前と菜々花しかヤツに会ったことないんだ、実はお前ら二人が犯人かもじゃん!?」


 その言葉に、るぅちゃんはヒートアップした。


「琉空っ!てめぇこそいつも以上にお喋りだな?!何か動揺でもしてんじゃねぇのか?あっ?」


 琉空ちゃんは、舌打ちをしてるぅちゃんの手を振りほどくと、ベンチに座り直した。しかし怒りは収まらない。小刻みに足を震わせている。


「しかも全員殺すって……このメンバー集めたの彩希先輩ですよね?!なんか出来すぎじゃん。それに千春先輩だってアリバイないじゃん……」


 國枝彩希さきねぇは、眉を八の字にして俯いた。


「やめろ琉空!彩希先輩に失礼だぞ!それに千春先輩が一番辛い思いをしているんだ、この事を伝えて良いものか……」


 キリちゃんが、頭を抱え込んだ時だった……


 聞き覚えのある声がした。


「全部聞いてたよ……皆、揉めてるから私がいたの気づかなかった?」


 皆がその声に振り向くと、 噴水の後ろから神山千春かみやまちはるが顔を覗かせた。







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