第34話 報告

 抜けるような青空、心地よい秋風、いつもの通学路……ボクは、生徒の波に神山桃子ももちゃんを探す。

 もう、いるはずもない桃ちゃんを……


 心の中で、複雑に絡み合った感情がボクを容赦なく襲った。

 ボクは、唇を噛み締め足早に正門を通り抜けた。



 2年B組の教室へ入ると、天音琉空りくちゃんに目をやった。

 いつもは、友達とおちゃらけている琉空ちゃんだが、今日は机に伏せて寝ている(フリ?)をしていた。


 2年A組の教室では、乙羽野おとわのキリトが小説を読んでいた。

 伊集院継治いじゅういんつぎはるは、二つ前の席からその様子をチラチラと伺った。

 キリトは、ずっと同じページを見ている……心ここに在らずなのだろう。


 2年C組の教室へ、関瑠羽太せきるうたが入ってきた。神山桃子かみやまももこの机の上には菊の花が飾られていた。その周りを取り囲む女子生徒達は、すすり泣いていた。

 瑠羽太は、目をそらすと自分の席に座り、スマホを弄った。

 まるで、菊の花から目を逸らすように……。


 神山桃子の事件は、3年生の間でも話題になっていた。

 3年A組國枝彩希くにえださきの周りも、話題で持ち切りだ。


「なあ、聞いたか?B組の神山千春かみやまちはるの妹って、殺されたらしいぜ。しかも生首が自宅に届いて、母親は倒れたきりまだ入院してるらしい……」


 彩希は、耳を塞いでトイレへと逃げ込んだ。


 学校は、各所の対応に追われているらしく、朝 生徒全員の点呼をし、無事を確認しただけで下校となった。


 彩希が、グルコミュで皆を呼び出した。

 学校は閉門しまう為、テラスには集まれない。この辺りで静かに話を出来るのは、やはり向ケ丘公園むかいがおかこうえんだった。


 平日ということもあり、人出ひとでは少なかった。

 風が吹くと、枯葉の乾いた音と、噴水の流水が園内に響き渡るほど静寂に包まれていた。


 欠席中の神山千春以外、学園祭実行委員会のメンバーは、噴水横のベンチに集合していた。


「皆、呼び出してごめんね。……実は徳山杏子とくやま先生から聞いたんだけど、桃ちゃんの件があって学校が慌ただしいでしょ?だから学園祭が中止になるかもって……せっかく委員会に参加してくれたのに皆に申し訳なくて……ごめんなさい」


 彩希は、皆にこうべを垂れた。


「そんな……彩希先輩のせいじゃないですよ!」


 キリトの言葉に、全員が頷いた。


 ボクは、しばし俯き昨夜の出来事考えていた。

 そして、頭の中で話をまとめると静かに口を開いた。


「あのさ、実はボク……昨夜Dr.ペストと会ってきたんだ……」


「え……?」


 皆が皆、耳を疑った。


「ど、Dr.ペストと……?」

「菜々花、ひとりで?」


 伊集院継治つぎちゃん天音琉空りくちゃんが、ボクの言葉を聞き間違えたかのように尋ねてきた。


「うん……」


「おいっ!お前何考えてんだ!相手は殺人鬼だぞっ!!」


 関瑠羽太るぅちゃんが、声を荒らげた。


 しかし、ボクは淡々と話を続けた。


 Dr.ペストは、相当な運動神経の持ち主だという事。

 恐ろしいほど、ナイフの達人だという事。

 ターゲットは、ボクだけでなく、委員会のメンバー全員だという事。

 あの動画に映っていたのは、本人ではなく共犯者だという事。


 そして……二人の殺人鬼は……


 このメンバーの中にいる


 と、いう事を。


 

 皆は、狐に包まれたかのように、キョトンとした表情を浮かべていた。








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