第33話 父の想い

「痛たたたっ……」

(最近蹴られてばかりだなぁ。九条菜々花ボク、一応女の子なのに……)


 ボクは、痛むお腹を押えながらトボトボと夜道を歩いて帰宅した。

九条竜之介パパのゴルフクラブ壊れちゃったよ……さすがに怒られるかなぁ……)


 ボクは、寝ているパパを起こさぬよう、ゆっくりと家のドアを開けた。


 ギイッ……という、ドアの開く小さな音に気が付いたのか、パパが玄関までやって来た。


「菜々花!こんな遅くに一体何処どこへ行っ……」


 パパは、ボロボロのボクを見て絶句した。


「な…一体何があったんだい?とりあえず早く入りなさい!」


 ボクは、リビングのソファーに座らされた。


「ごめんなさい……パパのゴルフクラブ壊しちゃった……」


 パパは、薬箱を持って来てボクの足元にあぐらをかいた。


「そんなことはいい。それより、カラダ中 沢山りむいてるじゃないか……」


 パパは、ボクの肘や膝にできた擦り傷を消毒して、絆創膏を貼ってくれた。


 パパは、それ以上何も聞かなかった。いや、聞かなくてもわかったのかもしれない……。


 ボクは、お風呂へ入ろうと脱衣所へ行き、鏡で全身を見た。

 何処どこ彼処かしこも擦り傷やあざだらけ……

(傷痕……残ったら嫌だな)


 ボクは、何故か関瑠羽太るぅちゃんの顔が頭に浮かんだ。

 そして……何故か涙が溢れた。


 お風呂から上がり、パジャマに着替えると、ボクはパパの部屋をノックした。


「ん?どうしたんだい、菜々花?早く寝ないと……明日も学校だよ」


 ボクは、うつむき加減でモジモジしながら……


「パパ……今日、一緒に寝ても……いいかな?」


 パパは、少し驚いた様子だった。

 しかし、すぐに笑顔になりモゾモゾとカラダを横にズラして、掛け布団を開けた。


「おじさん臭くてもいいなら、どうぞ」


 ボクは、パパの温かい微笑みが嬉しくて、嬉しくて、ベッドに飛び込んだ。


 ボクは、パパの匂いとぬくもりに包まれて深い眠りについた。


 父 竜之介りゅうのすけは、この歳で娘と同じ布団で眠れることに喜び、顔がほころんだ。



 翌朝……


 不思議なもので、時計を見なくても起きた瞬間に『遅刻』だってわかるものだ。


 パパもベッドにいない。


 九条菜々花ボクは、ボサボサの頭で飛び起きると、早足にリビングへ向かった。


 テーブルには、パパの置き手紙とお弁当が置いてあった。


『菜々花へ

 あまりムチャなことはやめておくれ。

 パパをにしないでね。

 今日の弁当は、菜々花の大好きな生姜焼きだぞ。

 では、お仕事行ってきます。父より』


 ボクは、その手紙を小さな胸で抱きしめた。


 急いで身支度をして、テレビボードの上に飾ってある、〔ママの笑顔〕に手を合わせた。


「ママ、行ってきます」



 ボクは、ふと仲間達の顔が頭に浮かんだ。

 昨夜の事を思い出し、複雑な気持ちで学校へと向かった。



 



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