第32話 菜々花の考察②

 



 冷たい風が、枯葉を鳴らした。


 ボクの考察に、Dr.ペストは開き直ったようにゆっくりと3回拍手した。


『いや、驚いたな。そこまで見抜くとは……』


「いや、あるよ。この事実に、ボクは酷くショックを受けた。信じたくない……出来れば嘘であって欲しい。けど……凄く悲しいけど、紛れもないだ。」


 Dr.ペストは、首を傾げた。

 また……仮面の奥で、少し動揺しているようにも見えた。


「キミは、ボクと初めてSNSの個チャでコンタクトを取った時、みずからを『Dr.ペスト』と名乗った。Dr.ペストと勝手に名付けて呼んでいるのは、ボク達メンバーと黒崎くろさき刑事、徳山杏子とくやまきょうこ先生、それと、ボクのパパだけだ。つまり……残念だけど……


 Dr.ペスト、キミは……ボクの……」


 ボクは、俯きギュッと拳を握りしめた。


 Dr.ペストは、軽快に指を鳴らした。

 そして素早く文字を打ち込む……


『素晴らしい!すごいよ菜々花!さすがだ!……ご褒美に教えてやろう。動画に映った共犯者も、キミが挙げた中にいる人物さ!まあ、ソイツも私にとっては捨て駒だけどね。……どうだい?君の身近な人間の内、10人中2人が殺人犯だなんてっ!なんか逆に楽しくなってきたなあ……だって、私はまた何食わぬ顔をして君の前に現れ、普段通りに接するのだから。ワクワクするだろう?』


 Dr.ペストは、笑っているのだろう……肩が小刻みに動いていた。


 ボクは、眉間に皺を寄せて歯を食いしばった。


「もうやめてっ!キミは一体誰なんだ?何故こんなことをするの?」


 Dr.ペストは、人差し指を立てメトロノームのように左右に振った。


『それは言えないさ。また、ご自慢の鼻を効かせて考えてくれたまえ。ちなみに、君が公園で殺人現場を目撃したから狙っているのではない……学園祭実行委員会のメンバーは死んでもらう。神山桃子を殺したのも、城田加奈子を殺したのもだ。これからひとりずつ死んでもらうよ。そういうプランだ。楽しみにしておいてね。今日は楽しかったよ。じゃあ、またをして会おうw』


「あっ!待って!……うっ」

 ボクは、腹部に痛みを覚え動けなかった。


 Dr.ペストは、手を振り軽快なステップで公園から去って行った。


 ボクは、虚しくその場へ膝をついた。


「ち、畜生ぅ……」


 自分の力の無さと、改めて確信した真実に、悔しくて……悔しくて……


 冷たい空気で乾いた地面、ボクの元だけは……黒く濡れていた。

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