第31話 菜々花の考察①


 Dr.ペストに、少しの動揺が見えた。


 そして、探るようにスマホに文字を打った。


『へぇ、神山桃子の復讐では無いと?……では、何故私をここに呼び出した?ペストマスクを外してやろうとでも思ってたか?』


 九条菜々花ボクは、ズキズキと痛む腹部を押さえながらゆっくりと立ち上がった。


「実は、気になることがあって確かめたかったんだ……今日いくつかわかったことがあるよ」


 Dr.ペストは、耳元に手をあてがい聞くポーズをした。


「まずひとつ……キミは非常に用心深い人間だ。理由はふたつ。ひとつ目……キミはここへ来る前に罠ではないかと警戒し、公園の外周を一回りして来た」


 Dr.ペストは手を耳元から離し、片手を腰にあてて文字を送信してくる。


『ほう、何故そう思う?』


「キミがここへ来た時、肩に松の葉が付いていた。この辺りで松の木が生えているのは公園にある住宅。あの家の前には松の葉がよく落ちてるしね。もしも、キミがやって来た方角がそっちなら、キミは裏門から入って来るはず。でも、キミは正門から来た。つまり、公園の外周をわざわざ回って来たということだろ?」


 Dr.ペストは、ゆっくりと首を2回縦に振った。


『認めよう、その通りだ。さすが鼻が利くねえ。で……もうひとつは?』


「もうひとつは……あの動画をしたからさ……」


『ん?それは当たり前じゃないか、自分の犯行が映っているんだ……』


 Dr.ペストは首をひねった。


「そうじゃない、削除したさ。キミは、あの動画から自分の正体がバレるのを恐れたのではない……あれがことがバレないように削除した。違う?」


 Dr.ペストの口数(文字数)が減った。


『何故……そう思う?』


「先程からワザと動き回って攻撃を仕掛け、試させてもらった……キミはあれだけ動いても全く息が切れていない。そして、ゴルフクラブを真っ二つにするほどのナイフ使い。

 けど、あの動画に映っているDr.ペスト……つまり、ボクが初めて会ったDr.ペストはナイフの使い方が乱雑、ボクを走って追いかけて来た時はものすごく息が上がってた。あれは別人だ。恐らく、キミの共犯者か何かだろう……ね?」


 …………


美井びいだ……って言いたいのかな?』


「違うよ、美井先輩は左利きだし、あの日あの時に利用しただけの使い捨て駒でしょ?さも、Dr.ペストは二人いましたとさせる為に。まさかキミと美井先輩以外に、もうひとりいるとは考えにくいもんね」


 Dr.ペストは、動かなくなった。

 返答もしてこない。



「最初の犠牲者、城田加奈子さんを殺害したDr.ペスト……実行委員会に現れ、黒崎刑事に撃たれた美井びい先輩……そして、今……九条菜々花ボクの前にいるキミ……つまり、Dr.ペストは3人だ!!!」


 

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