第28話 既読

 神山姉妹を除いた、九条菜々花ボク達 学園祭実行委員会のメンバーは、帰宅せず向ケ丘公園むかいがおかこうえんに集まっていた。


 カサカサと舞った枯れ葉が関瑠羽太せきるうたの頬をかすめた。


 ボクは、俯き加減で蚊の鳴くような声を絞り出した。


「ボクのせいだ……あの時動画なんて撮ったから……それを皆に見せたりしたから……」


 乙羽野キリトキリちゃんが、複雑な表情を浮かべてボクの肩に手を置いた。

「それは違うよ……だったら菜々花を直接狙うはずだろ?」


「そうじゃん、動画は関係ない、きっと……無差別とかじゃん?……な?」


 天音琉空りくちゃん伊集院継治つぎちゃんに同意を求めた。


「うん、ぼ、僕もそう思うよ……」


 しかし、ボクはそんな風には思えない。只々、自分自身を責めた。


 少し離れて電話をしていた國枝彩希さきねぇが、小走りで皆の元へ戻って来た。


「桃ちゃんのお父さまに連絡がついたわ。千春ちはるは部屋から出て来ないそうよ。それと……桃ちゃんは……警察の司法解剖が終わったら、家族葬をするという事だったわ」


「じゃあ、落ち着いたら皆で桃子に会いに行こうぜ。線香あげさせてもらおう」


 関瑠羽太るぅちゃんは、ボクの頭を優しく撫でた。


 全員いっぱいいっぱいだった。普通につくうことでさえも精一杯だった。大切な仲間を亡くした。しかも最悪な形で……。


 悲しみ、恐怖、憎悪、一気に押し寄せる感情の波を制御しきれる者は、誰一人もいなかった。


 ボク達の周りには、はしゃぐ子供たち、散歩を楽しむ老人、井戸端会議の主婦たち、いつもと変わらぬ何気ない風景がやけに詫びしく見えた。


 ボク達の日常は……もう、戻らない。



 帰宅後、ボクは父のスマートフォンを使い、グルコミュを開いた。

 皆、平常を保とうと、今やってるバラエティ番組がどうとか、C組の誰々が誰と付き合ってるとか、何気ないチャットをしている。

 ボクは参加する気力もなく、ただベッドに転がるだけだ。


 食事もしない、お風呂にも入らない、窓から差し込む西日を見つめ、桃ちゃんのことを考える。


 桃ちゃんと過ごす普通の日常がどれほど大きかったか、大切な時間だったか……

 桃ちゃんは、どれだけ苦しい思いをしたのか……

 どれだけ痛い思いをしたのか……


 そして、どれだけ悔しかったことか……。


 桃ちゃんは、ボクの1番の親友だった。


 入学してすぐ、オロオロしているボクに話しかけてくれたのが桃ちゃんだった。


「よう!ウチは神山桃子。おチビちゃんは?」


「あ、えっと、ボクは九条菜々花……です」


「おー!か!初めてお目にかかったわ、まじで。よろしくな、菜々花」


 その日から、ボク達は毎日のように一緒だった。

 2年生になり、クラスは離れたが、休み時間の度にどちらかがそっちの教室へお邪魔して女子トークに花を咲かせた。


 休日も2人で遊ぶことが多かった。

 電車で都会の方へ行き、有名コーヒーショップの新作を飲んだり、手が届かないような高級ブランドのお店を見たり、好きな俳優が主演する映画を観たり……思い出は語り尽くせないほどある。


(ボクはこうして悲しんでるだけ、ボクには何も出来ない……いや、何もしてないだけか……桃ちゃんの為に何か出来ないか?……いや、しなくては!桃ちゃんに笑われる……逆に悲しませてしまう)


 菜々花ボクは考えた……


(とにかく動こう……何かボクにも出来ることがあるはずだ……皆が言うにボクは鼻が利くらしい……考えろ、考えるんだ……!!)


 ボクはガバッと起き上がると、パパに借りたスマホを手に取った。

(もし犯人が、まだボクのスマホを持っているとしたら?……イチかバチか……)


 スマホの画面をスワイプさせ、自分の個チャを開いた。素早く文字を打ち込む。


『ボクは菜々花だ。ボクのスマホを持っているキミは犯人なのかい?』


(頼む……既読よ付け……反応してくれ……)


 間もなくパッと既読が付いた。

(よしっ!来たっ!……返信してこい……)


『こんにちは、菜々花。そうだよ、私がDr.ペストだ』


(!!……かかった!)


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