第27話 訃報


 九条菜々花くじょうななかが眠りについた頃、学園祭実行委員会のグルコミュには天音琉空あまねりくから皆へ、神山桃子かみやまももこの訃報が届いていた。


 皆は、そんなことを信じられる訳がなかった。


 乙羽野おとわのキリトは、すぐに琉空に電話をして確認した。


「琉空、そういう冗談なら……許されることじゃないぞ」


 琉空は、少し間を開けると……


「これが俺の冗談だったら、どんなに良かったか……」


 琉空は、それ以上口を開くことはなかった。



 スマホの無い菜々花ボクは、桃ちゃんの身に起きた恐ろしい出来事を知る由もなかった。


 翌日 雨は上がったが、朝から曇り空だった。


 ボクはいつも通り、桃ちゃんの後ろ姿を探した。


(あれぇ?いないなぁ……もしかして遅刻?ちぃちゃんと夜中まで語り合ったのかなぁ?)


 ふと、正門の前に学園祭実行委員会のメンバーが揃っているのが見えた。

 心做こころなしか暗い表情に見える。ボクは、少しだけ嫌な予感がした。


「おはよぉ皆!どうしたのさ、こんなところで?……あれ?桃ちゃんとちぃちゃんは?」


 皆、うつむき加減で黙り込んでいる。


 すると、琉空が静かに口を開いた。


「あのな、菜々花……今から言うことは冗談とかじゃない。冷静に聞いてくれ。桃子が……桃子が……こ、殺された……」


 ボクは、琉空ちゃんの唐突な言葉が理解出来ず、ポカンと口を開けた。

 そして、フツフツと怒りが込み上げてきた。

 ボクは、琉空ちゃんに強い口調で言葉を返した。


「ボクは、琉空ちゃんの冗談が好きだよ。けど……そういうのは笑えないよ?冗談になってない!」


 しかし、ボクの言葉に誰も何も反応しなかった。

 只々、俯いているだけだ。



 國枝彩希さきねぇが、ボクの身体を引き寄せ抱きしめた。


「菜々ちゃん、桃ちゃんは……桃ちゃんはもう……いないのよ……」


 彩希姉ぇは、涙ぐみ より強く抱きしめてきた。優しくて、甘い匂いがボクを包み込んだ。


 けど……ボクは、小刻みに身体が震え出すと、彩希姉ぇを突き放した。


「嘘だっ!彩希姉ぇは嘘つきだ!……うわぁああんっ」


「菜々花……」


 ボクは、差し出された関瑠羽太るぅちゃんの手さえ跳ね除けた。


 認めたくは無い、真実だと受け止めたくは無い……けど、皆の反応にを理解してしまったボクは、遂にその場で膝から崩れ落ちた。


 辺りを行き交う生徒達は皆、何事かと視線を向けて通り過ぎて行く。しかし、この後すぐに全校生徒がきょを突かれることとなる。


 この日、授業は行われなかった。全校生徒、全職員が体育館に集められた。

 ザワつく生徒達の前に、校長が登壇した。

 神妙な面持ちで、桃子の訃報を告げる。事細かな説明は無いが、事件に巻き込まれたとだけ伝えられた。しかし、昨夜学校内で起きた、黒崎刑事による拳銃発砲、美井の死亡事故に関しては全く触れられる事はなかった。

 昨夜の出来事は、無かったものとされていた。隠蔽というやつだろう。


 校長の話が終わり解散する間際、体育館の重い扉が力強く開いた。

 神山千春かみやまちはるが速歩で入ってくると、登壇し校長を押し退けた。


「おいっ!人殺しめっ!!……この中にいるんだろっ?出て来いよっ!私がぶっ殺してやるよ!!」


 千春は、狂ったように大声を出した。


 皆は、呆気に取られて静まり返り、動く事すら出来なかった。


 徐々にザワつく生徒達、千春を取り押さえる教員……その場は混乱し、殺伐としたまま閉会した。


 その後、この日は全校生徒自宅待機となった。


 

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