第26話 心配が生む心配


「ただいまぁ」


 九条菜々花ボクは、濡れた折りたたみ傘を玄関に置くと、廊下の電気を付けた。


(パパ帰ってないのかな?遅いなぁ……)


 ボクは、洗濯物を取り込もうとベランダへ向かうが、既に部屋の中の洗濯ひもにかかっていた。

(あれ?パパ一旦帰ったのかな……)


 洗濯物を一通り畳むと、いつものミルク入浴剤入りのお風呂で身体を温めた。


(Dr.ペストはボクのスマホの動画を消すのが目的のはず……何故、美井先輩を使ってボク達の前に存在を示したのかな?やっぱり、黒崎くろさき刑事が犯人で、美井先輩を殺してこの事件は終わりと思わせたかった?……でも、これからも協力するよとグルコミュに連絡してきたし……うーん、大体にして目撃者はボクだし、殺すならボクが一人の時に狙った方が簡単なはずだしなぁ……あー、わからないよぉ)


 ボクは、少しのぼせピンク色に染まった顔でキッチンへ行くと、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを出し一気に飲み干した。


 ガチャガチャと、ドアに鍵を差す音が聞こえた。


 父の九条竜之介くじょうりゅうのすけがびしょ濡れで帰宅した。


「おかえり、パパ。こんな雨の中どこへ行ってたの?」


 ボクは、父にタオルを手渡した。


「いやぁ、すごい雨だね。それが会社の同僚にお呼ばれしてね……ちょっと居酒屋へ。トークアプリで菜々花のスマホに連絡しておいたんだけど、見てなかったかい?」


 ボクは、パパには心配を掛けたくないと、事件の事を隠していた。

 けど…事態は大きくなり過ぎた。

 ボクは、スマホが無い事……今まで起こった全ての出来事をパパに話した。


「あのね、パパ……云々」


「なるほど……Dr.ペストか。そんな大変な事を、菜々花がパパに隠してたのは悲しいなぁ。実に恐ろしい事件だ……刑事さんの言うことを聞いて、犯人が捕まるまでは注意して行動するんだよ」


 パパは、複雑な表情を浮かべながらも、優しさの溢れる笑顔でボク微笑み掛けた。


 ボクは反省した。

 そしてパパに話したことで、少しだけ楽になった。


「あ、そうだ!菜々花、パパのスマホを持ってなさい。私は会社の携帯スマホがあるから」


「ありがとう、パパ」


 ボクは、疲れと安堵で深い眠りについた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る