第29話 対峙

 

 Dr.ペストから返信が来た!

 必ず何か


 けど……九条菜々花ボクは、に気が付き、複雑な思いから眉間に皺をよせ、下唇を噛んだ。

 益々、Dr.ペストの犯行を止めなければと、強く思った。


『キミにお願いがある。今夜23:00に向ヶ丘公園むかいがおかこうえんで会えないかな?もちろん1対1だ。警察や仲間には何も言わない』


 既読は付いたが、暫く間が開く……。

 ボクは固唾かたずを呑み、画面を見つめる。


『いいだろう、行こうじゃないか。神山桃子かみやまももこの復讐かな?精々覚悟しておいで。私も只ではやられないよ。』


 短いやり取りが終わった。ボクは身体中から汗が噴き出ていた。

(桃ちゃん、見ててね。ボクが敵を討つよ)


 シャワーを済ませて、夕食の準備をする。間もなくすると父 九条竜之介くじょうりゅうのすけが帰宅した。ボクは桃ちゃんの訃報を伝えた。パパは驚き、信じられない様子だったが、これから先のボク達のことを心配した。


 まさかとは思うが、また事件が起きないとは限らない。特に女子学生を狙った凶悪犯罪の可能性もある。できる限り複数人でいること、夜は出かけないことを強く言われた。


 わかったと返事をしたボクだったが、パパとは目を合わせることは出来なかった。


 22:00を過ぎると、パパは欠伸あくびをしながら自分の部屋へと入って行った。ボクは、頃合いを見計らって家をそっと出た。冷たい風がボクを包み込む。しかし、パパのゴルフクラブを握りしめている手には汗をかいていた。


 22:45 

 ボクは、公園の前に到着。正門から入り、けやきに囲まれた小道を抜けると、園内の中心にある噴水の前でを待った。裏門の方角もチラチラ気にしながら辺りを見回す。


 待つこと10分、ヤツは正面から堂々と現れた。


 改めて見るヤツの姿は、やはりおぞましかった。くちばしの様に尖ったペストマスクが不気味にこちらを見ている。ボクは、ヤツの頭から足元までめ回すように見ると、ひとつ呼吸をついて話しかけた。


「本当に来てくれたんだね?!Dr.ペスト……」


 すると、Dr.ペストは右手の革手袋を脱ぎ、ボクのスマートフォンをポケットから取り出した。


 ボクは、ヤツの右手を見てやろうと目を凝らした。

 しかし、そこはヤツも抜かりはない。革手袋の下に、スマートフォンを操作できるタイプの手袋を装着していた。そして文字を打ち始める。


『声、聞かせないよ。君は鼻が利くからね。』


 Dr.ペストは、スマートフォンで会話をするらしい。

 ボクは、かまわず話しかけた。


「別に構わないよ。ところで早速だけど単刀直入に聞く。Dr.ペスト……キミは誰なんだい?」


 Dr.ペストは、頭を掻く仕草をした。


『そんなこと答えるわけないだろ?……馬鹿か?君は?それより神山桃子かみやまももこの復讐をするんだろ?そのゴルフクラブで。かかって来なよ、おチビちゃん』


 Dr.ペストは、ナイフを取り出すとゆっくりと構えた。


「そのナイフで桃ちゃんを……絶対に許さない!!」


 ボクは、小さな震える手で、重いゴルフクラブを構えた。


 冷たい風が園内を囲った欅を揺らし、まるで観客が騒ぎ立てるように聞こえた。




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