第20話 違和感

「お、お前だったのかっ!……美井びいっ!!」


 瑠羽太るぅちゃんが、驚きと怒りの声をあげた。


「クソっ!……ちょっと待て!動くなよ!」


 美井は、彩希姉ぇの首をまた右腕でギリギリと締め上げる。


「お前!……絶対に許さないぞ!覚悟しろよ!」


 キリちゃんは、冷静でいられなくなった。こんなにキレたキリちゃんを見るのは、皆 初めての事だった。


「おいっ美井、退学の恨みか?ってか、今日 関東へ向かったんじゃなかったのか?……とにかく國枝くにえだを離しなさい!」

 徳山先生も声を荒らげた。


「ちょ、ちょっと待て!関東に行ったのはえいだ、俺は行ってねぇ!それと、俺はそのドクターなんとかじゃねぇんだよ……」


 何故なぜか、美井の顔に焦りが見える……。


「お前バカかっ!この状況でよくも抜け抜けと嘘が言えるな!」


 るぅちゃんは、拳を強く握りしめ、歯を食いしばっていた。


「ほ、本当だ!嘘じゃねぇ!……とにかく、は、話を聞いてくれ!俺の話を信じてくれたらこの女を解放する」


 美井は目を泳がせながら、必死に懇願する。


「この野郎め……」


 キリちゃんが、人差し指で眼鏡をなおした。


「ちょっと待て皆!確かに、美井先輩は……Dr.ペストじゃない」


 ボクの思いがけない言葉に皆、困惑した。


「どういうこと?菜々花……この状況じゃ、さすがに無理があるでしょ……?」


 神山千春ちぃちゃんが、皆の気持ちを代弁した。


「確かに無理があるかもだけど、美井先輩は……公園で遭遇したDr.ペストはだった。単純かもしれないけど、完璧な変装をして、利き手を間違えるようなミスはしないはずだよ」


 この状況でも、冷静な判断を下したボクに皆 驚いた。


「よし、わかった。じゃあ話聞いてやる……ただし、バカなマネをしたら……絶対に許さねぇ」


 るぅちゃんは、冷たい地べたにあぐらをかいた。


「ああ……わかってるよ……」


 美井は伏せ目がちになり、ゆっくりと話し始めた。


「俺は、ポメラニアンを飼っている……こんな俺にも大切なものくらいあるんだ。俺の唯一大切な存在なんだ。毎朝5時に起きて散歩に行くんだけど、今朝もまだ薄暗い中、散歩していたんだ。そしたら突然後ろから頭を殴られてさ、振り返ったらがいたんだよ。それでさ、犬を掴み上げてこう言ったんだ……お前にやってもらう事がある、もし聞かないのであれば……」


 美井は、震えていた。


「犬を殺すってか?……」


 天音琉空りくちゃんが口を挟む。


「いや、違う……して、生きたまま返す……と言いやがった」


 美井は、目に涙を溜めている。


 皆は、背中に寒気がゾクリと走った。


「な、な……なんてヤツだ」


 伊集院継治つぎちゃんは、冷や汗が止まらない。


 時間が経つにつれて、彩希姉ぇがぐったりしてきた。

 身体も精神的にもキツイのだろう。早く解放してあげたいが、まだ聞かなければならないことがある……


(ごめんね、彩希姉ぇ……もう少しだけ待ってて)


 ボクは、急ぎ足で要点をまとめ質問した。


「Dr.ペストに何を命令されたの?」


 美井のひたいから汗が流れた。








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