第16話 もうひとりの容疑者



「何を言ってるんだ?菜々花……」


 不思議そうな顔をした皆の視線が、九条菜々花ボクに集まった。


「それはどんな理由だい?九条さん……」


 黒崎刑事は、落ち着いた様子で尋ねた。


「んとですね……ボク達が警察署に来た時、黒崎刑事さんは窓口にいませんでした。つまり、ボク達が来た理由を知らない。けど、ここへ案内してくれてぐに、こう言ったんです……を担当している、と」


 黒崎刑事の優しい目は鋭くなっていた。


 ボクは話を続けた……


「もしも黒崎刑事さんが犯人だとしたら、るぅちゃんとボクの顔を知っていて、近づいて来た……なんて可能性は……ないですよね?エヘッ」


 ボクは、人差し指で頭を掻きながら、苦笑いを浮かべた。


 皆が息を飲んだ……


 一瞬の沈黙のあと、黒崎刑事が笑顔で答えた。


「九条さん、すごい洞察力だね。驚いたよ。確かに可能性はある。でもね、ごめん……あの時廊下で立ち聞きしただけなんだ、何やら揉めていたみたいなのでね。アハハッ」


「ったく、菜々花ったら……驚かすな、まじで」


 神山桃子ももちゃんがボクの頭をコツンと叩く仕草をした。


 皆、何かホッとしたような笑顔になった。


「でもさ、やっぱ俺は外部の人間による犯行だと思う。推理小説じゃあるまいし、この中にDr.ペストはいる!……なんて笑っちゃうじゃん」


 天音琉空りくちゃんはおチャラけながらも、その眼差しは真剣だった。


 皆、力強く頷いた。


「あっ、そうだわ!黒崎刑事にもグルコミュ(コミュニケーションアプリのグループ)に入って貰いましょう。そしたらとても心強いわ。いかがでしょう、黒崎刑事?」


 國枝彩希さきねぇが恐る恐るお願いすると、黒崎刑事は快諾かいだくした。


「なんだか、学生に戻ったみたいでドキドキするなぁ……」


 黒崎刑事は、太い眉毛を八の字にして照れ笑いした。


 その後、しばらく雑談していると、時計は16時をまわっていた。


「そろそろ学校へ戻りましょう。学園祭の役決めしないと……」


 彩希姉ぇの言葉に、皆 慌てて動き出した。自分達は、学園祭実行委員だと我に返ったようだった。


「それじゃ皆、呉々くれぐれも気を付けてね」


 黒崎刑事が見送る中、窓口のおじさんに頭を下げ警察署を後にした。


 空は暗く、湿った風が吹いていた。


 皆、急ぎ足で学校へと戻った。



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