第12話 誤解


 何時いつかの夕刻……


「あれ?もしかして千春の妹さんだよね?……えーと、確か桃子ちゃん?」


 その男子生徒は、学校の帰り道コンビニから出て来た桃子に話しかけてきた。


「は、はい、そうですけど?あっ、もしかして姉貴の彼氏さん!」


 写真では見たことがあるけど、本人には初めて会った。まあまあのイケメンだ。


「いやいや、参ったな……お姉さんより可愛いね、桃子ちゃん」


「え……?」


 桃子は少し怪訝けげんな表情をするが、褒められたら悪い気はしない。


「なんですか?私に乗り換えですか?……なんてねっ」

 桃子は冗談を口にした。


「うん、それな。……てか、1回だけでいいから。……結構まじで」


 男は気持ち悪い薄ら笑みを浮かべた。


「は?……何言ってんの?アタオカなの?……まじキモいんだけど!姉貴の彼氏だろアンタは。変な冗談はやめろっ!」


 桃子は身体を縮こませ半歩後ろに下がった。


「いや、マジなんだなコレが……俺さ、実は別に千春のこと好きでもないんだよね。1回ヤリたかっただけ〜」

 男はふざけた顔と仕草で答えた。


「こ、この野郎……」

 桃子は怒りに震えた。(姉貴をもてあそんでるうえに、うちにヤラせろだと……)


「あ、んとね、断るともれなく千春の裸の写真をネットでさらしまーす!」


 男はスマートフォンをポケットから取り出し、桃子の目の前でゆらゆらと揺らした。


 桃子は強ばった表情を隠すように、冷静に口を開いた。


「ハッタリだろ?そんなもん、証拠あんのか?あるなら見せてみろよ、変態野郎」


「あるんだな、コレが……」

 男はスマートフォンの画面を開くと、自慢げに写真を見せつけてきた。


 それは、千春がに眠っている隙に盗撮されたものだった。

 男はニタァといやらしい笑みを浮かべる。


 桃子はショックを受け、グラグラと立ちくらみが襲ってきた。

 こんなのばら撒かれたら、姉貴が……



 桃子は男が油断している隙にスマートフォンを取り上げる。その写真を素早く削除した。


「あっ!このガキッ!」


 男はすぐさまスマートフォンを取り返すが、時すでに遅し、写真は完全に無くなっていた。


「このあまタダで済むと思うなよ」


「姉貴と……千春と別れろ!近づくんじゃねぇ!」


 桃子は声を荒らげた。


 そのタイミングだった……千春が現れたのは……


 千春は桃子のその言葉だけを聞いてしまったのだ。


「あ、姉貴……」


 千春は桃子を睨みつけると、男の手を引き足早にその場を離れた。

 男は振り返り、汚いツラで舌を出していた。


 桃子は事実を伝えることが出来なかった。その隙がなかった。悔し涙を流しトボトボと足取り重く家に帰った。


 家に帰るなり、千春が桃子に噛み付いた。


「桃子、てめぇ!どういうつもりだ!まさかお前、私の彼氏を奪おうとしてたんじゃないだろうな?」


「いや……違うんだ、姉貴。うちの話を聞い……」


「言い訳なんか聞きたくねぇんだよ!このクソガキが!」


 千春は怒りで我を忘れていた。


「なんだよ、畜生!もういい、勝手にしろブス!」


 それ以来、千春と桃子はいがみ合う仲となった。

 千春は、それから間もなく男に振られた。その事で、桃子は余計に恨まれることとなったのだ。


 しかし、桃子にはそれが唯一の救いになった。千春が、別れの原因をうちだと思っても、恨まれても、アイツと……あのクソ野郎と離れられたなら全然OKだ。




「……そういうことかだったのか」


 菜々花ボクの話を聞いた千春ちぃちゃんは、首を項垂うなだれた。


「私は馬鹿な姉貴だな……菜々花、教えてくれてありがとう!今日の夜、桃子に謝るよ」

 ちぃちゃんは、顔を上げると吹っ切れた表情になっていた。


 あっという間に12時をまわった。

 ポカポカした陽気の中、オープンテラスにはいつものように、学園祭実行委員会のメンバーが集まり始めていた。

 お昼ご飯を済ませて、警察署に例の動画を提出しに行く予定だ。


「あのさ、桃子……帰ったら話あんだけど……」

 千春は目を合わせずにそっと話しかけた。


「は?……うちは話なんて無いけどな」

 桃子は素っ気なく返事をした。


 そこへ毎度騒がしい天音琉空あまねりくが小走りでやって来た。

「皆!ビッグニュースじゃん!聞いて聞いて!」


 またか……と、全員苦笑いを浮かべた。



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