第11話 姉妹

「パパァ……起きてるのぉ?遅刻しちゃうよぉ?」


 九条菜々花ボクは、キッチンから声をかけた。


「おはよう菜々花。ヒゲを剃ってたよ」

 父の九条竜之介くじょうりゅうのすけはアクビをしながらリビングへやって来た。


「朝ごはん、トーストと目玉焼きでいい?」

(もう作ったけど……)


「もちろんです、いただきます」

 パパはトーストにバターを塗り、その上に目玉焼きをのせると大きな口でかぶりついた。


「あ、パパ!今日は玉子焼きが綺麗に出来たのだ。お弁当楽しみにしてね」

 ボクは、ドヤ顔で父のグラスに牛乳を注いだ。


「おっ、そりゃ楽しみだね。仕事頑張れそうだ」

 パパはトーストを平らげると、牛乳を一気に飲みほした。


「じゃあパパ、後片付けはお願いね。……あ、あと今日もお天気良さそうだから洗濯物ベランダに干したよぉ。あと今日は午前授業で、午後は学園祭の実行委員会に出てくるね。」

 ボクは、鞄にお弁当とスマホを入れると、イソイソと立ち上がった。


「じゃあ行ってきます。」

 小走りで玄関へ向かうとパパが呼び止める。


「おい、菜々花!エプロン、エプロン」


 おっちょこちょいのボクは、制服の上にエプロンを着たまま登校するところだった。


「あ、危なかった、えへへへっ」


 竜之介は、菜々花を見送ると洗い物を済ませ、亡き妻の写真に手を合わせ家を出た。


 抜ける青空の中、ボクは通学する生徒の波に、一際目立つゆるふわパーマの茶髪、神山桃子かみやまももこを見つけた。


「桃ちゃん、おーはよっ」

 ボクは後ろから飛びついた。


「おっ、菜々花おはよっ。身体大丈夫か?打撲だろ?!」


「うん!ボク、強いからよぉ」


 ボクは打撲の痛みより、関瑠羽太るぅちゃんが戻って来たことが嬉しくて仕方がなかった。また8人で楽しい学校生活を送れると思うと、身体の痛みなど気にならなかった。


 程なくして、後ろから神山千春かみやまちはるが速歩で通り過ぎる。

「ちぃちゃんおはよぉ」


「おう、菜々花おはっ。またテラスでな」


 桃子と千春はお互い見向きもしない。


「桃ちゃんなんで無視するのさぁ?ちょっと前まで仲良し姉妹だったのにぃ……」

 ここからボクのお節介せっかいが始まる。


「なんでって、アイツが喧嘩売ってきたから買っただけ……まじで」

 桃ちゃんはムスッとしている。


「事情を聞こうじゃないか、この菜々花様に任せなさい……ね?ね?……ね?」


 桃ちゃんは眉間にしわを寄せ、少し考えると口を開いた。


「う~ん、いや、あのね……アイツ彼氏がいたんだけどさ……云々」


 話を聞き終えたところで学校に着いた。


 桃ちゃんは、ボクに話したことで、少しスッキリした顔に見えた。


「じゃあ、また放課後にテラスで!」

 ボク達は手を振ると、それぞれの教室へ入って行った。


 2時限目が終わり、休憩に入ると、ボクは3年B組の前でモジモジしていた。

(誰か優しそうな先輩はいないかなぁ……よしっ、この人に聞いてみよっと)

「あの、すみません、ちぃちゃん……いや、神山千春先輩はいますか?」


 間もなく、ちぃちゃんが廊下へ顔を出した。


「おー、菜々花珍しいな、3年生の教室まで来て。どした?なんかあったのか?」


「あのさ、ちょっと話があるのさ……」


 ボク達は、人気ひとけの少ない階段のおどり場へ移動した。


「ちぃちゃんと桃ちゃんが喧嘩してるじゃんか……原因を教えて欲しいんだ……」

「おいおい、随分と唐突だな……」


 ちぃちゃんは苦笑いを浮かべた。


「まあいい……簡単に言うと、私彼氏がいたんだけどさ、結構幸せに過ごしてたんだ。初めて出来た彼氏だったしさ。それがある日、桃子がその彼に向かって姉貴(千春)と別れろって言ってるところに遭遇したんだよね。それでさ……云々」

 ちぃちゃんは、怒りを押し殺すような、少し悲しいような声で話した。


「うんうん、やっぱりそういうことか!……ちぃちゃん、それは誤解なんだ…………」


「え?誤解……?」


 ボクは、まるで自分の事のように話しを始めた。



 




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