第8話 荒クレ者

 関瑠羽太せきるうたは、栄達と学校の屋上にたむろしていた。


 栄の隣にいるのは側近の美井びい、学校で二番目に強い……というか危ない男だ。瑠羽太は強さで言えば二番目だ。


「おい関、持ってきた?」


 上納金とは、他校のヤンキーから守る用心棒料的な名目で、全校生徒の男子から毎月500円を回収し、栄に納める。


 全学年男子は約180名いる。つまり毎月10万円近く、栄が手にしている。


 瑠羽太は、二年生からの回収を担当させられている。


「はい、回収してきました」


 瑠羽太はポケットから3万円を取り出すと、栄に渡した。


 しかし、瑠羽太は回収など一度もしたことは無い。自分がアルバイトで稼いだ金を渡していたのだ。


「ご苦労さん、また来月も頼むわ」

 栄はニヤニヤしながら、受け取った金を財布へとしまい込んだ。


「あ、それとさ、お前確かとかいう女と知り合いだよな?明日連れて来い、遊んでやるからよ」


「え……」


 瑠羽太は息を飲み込んだ。


「栄君はああいうロリっ子好きだなぁ」

 美井がヘラヘラと気持ちの悪い顔で笑う。


「おい関、聞いてんのか?コラ……」

 栄が短気を出して眉間に皺を寄せた。


「……そ、それは……勘弁して下さい」

 瑠羽太は冷や汗が止まらなくなっていた。


「あー、アイツお前の女か?悪かったな、知らなかったもんでよ」


 一瞬、瑠羽太の気が緩んだ。

 その時……

 栄の蹴りが、瑠羽太の腹に突き刺さった。


「うっ!」


「俺はな、他人ひとの女だと余計に燃えるんだよ」

 栄と美井は、ゲラゲラと下品な顔で笑った。


 瑠羽太はうずくまり動けない。


「俺も栄さんの後に、九条ちゃん頂いちゃおうかなぁ……最初にボッコボコにして動かなくしてさ……」

 栄よりも残虐なのは美井、喧嘩でも躊躇ちゅうちょせずにバットで人を殴れる。


「こ、この下衆野郎げすやろうめっ……」


 瑠羽太は、美井を睨みつけた。


「あ?お前、誰に口聞いてんだ?コラッ」

 美井はキレた。瑠羽太のピアスを掴むと、思いっきり引っ張った。


「ぎゃあああっ」


 ブチッと音を立て、瑠羽太の左の耳朶みみたぶは二つに裂けた。


 痛みで転げ回る瑠羽太を見て、美井は腹を抱えて笑った。


 耳を押さえる瑠羽太の手は、真っ赤に染まっていった。





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