第9話 帰る場所

 バンッ!


 屋上の入口が勢いよく開いた。


 乙羽野おとわのキリトが足早に関瑠羽太せきるうたの元へとやって来た。


「瑠羽太、大丈夫か?」


「キ、キリト……お前何しに来た?今すぐ帰れっ!」


 瑠羽太は焦った。


 自分に関わると、仲間達がえい美井びいに目をつけられる。だから瑠羽太は皆と距離を置いてきた。絶対に迷惑を掛けたくなかった。


 キリトは、そんな気持ちを理解していた。瑠羽太が自分で決めたことをんでやりたくて、今まで見過ごしてきたがもう限界だった。瑠羽太が苦しむのを見たくない。


「栄先輩、瑠羽太は返して貰いますよ」

 キリトは、足の震えを抑えながら口を開いた。


「おい、イケメン君……何言っちゃってんの?……覚悟決めて口聞いてるんだよな?コラッ」

 キリトは、栄のすごみに声を震わせながらも目を逸らさない。


「も、勿論です。絶対に退きませんよ……」


 栄が舌打ちをしてキリトに近づいた。


 その時……


 天音琉空あまねりく伊集院継治いじゅういんつぎはる、そして九条菜々花くじょうななかが駆け付けた。


 皆 ガクガクと震えながらも、栄を睨みつけた。


「なんだ、なんだお前らは……?」

 美井は面倒くさそうに眉をしかめた。


「お、お前らまで……」

 瑠羽太は腹と耳を押さえ、ガクガクと身を震わせながら立ち上がった。


 菜々花ボクは、瑠羽太に歯を見せて微笑みかけた。


「このパンピー共がっ!」

 栄はブチギレた。こうなると、誰も手が付けられない。教師でさえもだ。


 キリトは、抱きつくように栄に掴みかかった。


 その隙をついて、琉空と継治の二人が栄に飛びつき、片足ずつ取り押さえつけた。


 キリトは、栄を抱え込みそのまま倒れ込み動きを封じた。

 三人に押さえつけられ、流石に動けない栄。


「お前らふざけやがって!許さんぞっ!タダじゃ帰さねえ!」


「あれれれ……九条ちゃんやっぱ可愛いね!」


 美井は、菜々花ボクに近づいて来た。


 ボクはたじろぎ、怖くて動けなくなった。


「おいっ……美井」


「あ?」


 美井が振り向いた瞬間、瑠羽太の拳が美井の左頬にヒットした。

 美井は、鼻血を出しよろめいたが、踏ん張って倒れなかった。だてに学校のナンバー2を気取っているワケでは無い。


「この野郎……ぜってぇ殺すっ!」


 美井の猛攻に瑠羽太は突き飛ばされた。

 美井は、上からかかとで何度も何度も踏みつけた。


 ゴッ……ゴッ……ゴッ……


 鈍い音が聞こえる度に、瑠羽太の顔は青ざめていく。


「やめろォ!」


 ボクは、瑠羽太の上に覆い被さり身を呈して守る。


「ちっ、二人で死んでろ」


 美井は、容赦なくをボクを踏みつけた。

 

「くっ、くっそぉ……野郎ォ!」

 怒りに満ちた瑠羽太は、ボクを抱え込み身体を入れ替え上になった。


 美井は、息を切らしながらも攻撃を止めない。


 瑠羽太の背中は制服が破れ、赤く腫れあがり悲鳴を上げていた。


 その時、屋上のドアが激しく開いた。


「何をやってる!やめなさい!」

 数人の教師が、ボク達の元に駆け寄ってきた。

 國枝彩希くにえださきが、事態を察知して連れて来たのだ。

 もちろん神山千春かみやまちはる桃子ももこ姉妹も一緒に来た。

 

「チッ!」

 

 栄と美井は、教師達を睨みつけると、屋上から出て行った。二人を恐れている教師達は、声も掛けれず見送るのが精一杯だった。


 勇敢に戦ったキリト達は、身体の力が抜けその場に座り込んだ。


 瑠羽太とボクは、身体中ボロボロで立ち上がることが出来なかった。


「菜々ちゃん!大丈夫?!」

 彩希姉ぇさきねぇと神山姉妹は、すぐ様駆け寄って来た。


 ボクは、ゆっくりと身体を起こすと、

「彩希姉ぇ……ボク、初めて人に蹴られちゃった、えへへっ」

 と、身体を震わせ、目に涙を溜めながらも笑って見せた。

 そんなボクの強がりに、皆は目を潤ませた。


 瑠羽太は、顔を伏せたままだった。


 瑠羽太は、今まで自分なりに皆を守ってきたつもりだった。しかし、逆にこんな事に巻き込んで迷惑をかけてしまった。とても顔を上げることは出来なかった。


「そうだ、るぅちゃんの耳が大変なの!」

 ボクは、るぅちゃんの両頬に手を当てると、くいっと上に向けた。


 瑠羽太が、久しぶりに見た菜々花の顔や身体はボロボロだった。


 瑠羽太は、眉を八の字にして涙を堪えていた。


「まあ大変!耳たぶが裂けてるじゃない!」


 彩希は、ポケットからハンカチを取り出すと、瑠羽太の耳を押さえた。


「菜々花と瑠羽太は病院だな……」


 キリトは、痛々しい二人を見て苦笑いを浮かべた。


 瑠羽太は、土下座をして地面に頭を擦り付けた。


「皆、すまない!俺のせいで、まさか……こんな……」


 それを見た琉空は、

「プハハッ、おいっ皆、あの瑠羽太が土下座してるぞ!こりゃ傑作じゃん、誰か動画撮れ、動画……なんてな。おかえり、瑠羽太」


 皆は、帰って来た瑠羽太に優しく微笑んだ。


 皆は、とても嬉しく……そして安堵した。


 涙目の瑠羽太は顔を上げると、


「皆、本当にごめん………結局、俺はひとりじゃ何も出来なかった」


「菜々花……ごめんな。これからはお前のこと、で守るから……」


 ボクは、満面の笑みで瑠羽太の目を見つめた。



「それならボクは……!」



「な、菜々花……」

 るぅちゃんは、涙を堪えきれなくなった。

 子供のようにわんわん泣きながら、ボクをギュッと抱きしめた。


 夕陽はすっかり沈み、東の空にアンドロメダが輝いていた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る