第6話 些細な手がかり


「なるほどじゃん、連続殺人鬼Dr.ドクターペスト……ってトコか」


「こっちがのことはわからなくても、菜々花は現場を目撃してる、顔を知られているんだよ。狙われたりしないよね、まじで?」

 神山桃子ももちゃんが、不安そうに九条菜々花ボクを見つめた。


「す、少しでも、て、て、手掛かりがあればね……」

 伊集院継治つぎちゃんも心配そうにモジモジしている。


「…………アッ!手掛かりなら少しだけあるよ」

 ボクは、もう一度スマートフォンを出すと、動画を再生した。そして、一瞬明るくなった場面で一時停止すると、Dr.ペストの足元に指をさした。


「ここ、よぉーく見て。黒いポンチョの隙間からジャージを履いてるのが見えるんだけど、緑のラインが一本入ってるんだよ。これってさ……」


 乙羽野おとわのキリトが目を丸くして、ズレた眼鏡をなおした。


「こ、これって……向ケ丘高等学校ウチのジャージか?」


 皆……戦慄した。


 汗ばむ気温とは裏腹に、全員が肝を冷やした。


 それを断ち切るように、天音琉空りくちゃんがおちゃらけで見せた。


「全く、菜々花は変なとこに鼻が利くじゃん。イヌか、お前は!」


 少しだけ空気は和らぎ、皆クスクスと笑った。


 そこへ女子生徒二人組がやって来た。


「皆お待たせ」


 國枝彩希くにえださき(3年A組)は地味だが、モデルのような容姿で清楚な美人。つやのある長い黒髪には、日差しで天使の輪が出来ている。少し間が抜けていておっとりしているが、生徒会長を務め皆をまとめている。


 キリちゃんと継ちゃんが想いを寄せる女性だ。


 ボクも優しくて綺麗な彩希さんのことが大好きで、愛称を込めて彩希姉ぇさきねえと呼んでいる。


「彩希姉ぇ、待ってたよぉ……!」


 ボクは彩希姉ぇに飛びついた。


「彩希姉ぇは甘いミルクのいい匂いがするんだぁ、いいだろぉ」


 ボクは、意地の悪い顔でキリちゃんと継ちゃんを見て口角を上げた。


 彩希姉ぇは恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「皆、今回は秋の学園祭実行委員会に参加してくれてありがとう」


 彩希姉ぇは、深々と頭を下げた。


「いやぁ、彩希先輩の為なら何でもしますじゃん!」

 琉空ちゃんがおちゃらけると、キリちゃんと継ちゃんがじろりと睨みつけた。


 彩希姉ぇの横にいるのは神山千春かみやまちはる(3年B組)、彩希姉ぇの親友で、生徒会副会長、神山桃子ももちゃんの実姉だ。切れ長の目に細身の身体で、とにかく気が強く、サバサバした性格。桃ちゃんとは3か月前に喧嘩して以来、口も聞いていないらしい……。


 桃ちゃんが千春ちぃちゃん


「あら、お姉様。彩希先輩の横にいるとブスが余計に目立つわよ。キモっ……まじで」


 クスクスと笑う桃ちゃんに、カチンときたちぃちゃんが言い返す。


「皆、ソイツと居ると馬鹿が伝染るよ。お前は帰れよ、クソガキがっ」


 一同冷や汗……。


 彩希姉ぇがちぃちゃんを……ボクが桃ちゃんをなだめた。それから、琉空ちゃんが話を変えた。


「そうそう、先輩方聞いて下さいよ!菜々花が夕べ、大変な目に!」


 琉空ちゃんが、ひと通り説明すると、二人に動画を見せた。

 彩希姉ぇは口元に手を当て、小刻みに震えた。


「菜々ちゃん何もされなかった?大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。ボク逃げ足速いもん!」


「良かった……」


 彩希姉ぇはボクをギュッと抱きしめた。


「Dr.ペスト……ウチのジャージか。確かに不気味だね」


 ちぃちゃんも、不安そうに爪を噛んだ。


「そうだ!コミュニケーションアプリでグループを作らない?何かあれば、皆 同時に情報交換出来るし。グループ名は学園祭実行委員会でどうかしら?」


 彩希姉ぇの提案に、皆はすぐに同意しグルコミュ(グループコミュニケーション)が作られた。


「よし、とりあえず放課後に皆で警察に行こう。動画を提出して、菜々花の話をしないと」


「キリちゃんありがとう、皆もありがとう」


 ボクは、皆がいるだけで安心できた。

 ボクにとってかけがえの無い最高の仲間たちだ。


「ところで……せき君はやっぱり参加してくれないのかな?」


 彩希姉ぇが、腫れ物に触るように……申し訳なさげな目で、ボクの顔をチラ見して小声で質問した。


 ボクは、ピクリと反応して下を向いてしまった。


「あー、えっと、そうでしたね!後でオレから話してみます」

 慌ててキリちゃんが答えたところで、お昼時間終了のチャイムが鳴った。


「じゃあ、また放課後に!」



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