第4話 オープンテラス


 賑わう学生達をよそに、乙羽野おとわのキリト(2年A組)は暖かい日差しの中、オープンテラスのいつもの席で、珈琲を片手にお気に入りの推理小説を読んでいた。


「あの、乙羽野先輩……クッキー焼いてみたので良かったら召し上がってください」


 顔を赤らめた女子学生二人組が声を掛けてきた。


「ありがとう、頂くよ」


 キリトが笑顔で答えると、二人組はキャーッと黄色い悲鳴をあげながら去っていった。


 キリトは、センターパートの黒髪で眼鏡が似合う端正な顔立ち、今人気の若手俳優に似ていることもあり学内一の人気だ。


「キ、キリト君、ま、また貢ぎ物かい?」


 キノコ頭でヒョロガリ、小脇にノートパソコンを抱え キリトの隣に座ってきたのは伊集院継治いじゅういんつぎはる(2年A組)。学年でいつもトップの成績、気は弱いがとても温厚な男だ。


「おっ、クッキーじゃん、いただき〜……うまっ」


 神山桃子かみやまももこ(2年C組)は、ゆるふわパーマの茶髪と、開襟シャツから覗かせる大きな胸が自慢のギャル。見た目とは裏腹に正義感に溢れ、誰とでも仲良くなれる明るい性格の持ち主だ。


「継治〜、パソコンばっかしてねーで彼女でも作れ、まじで」


 桃子はクッキーを口にしながら、揶揄からかう。


「い、いや、ぼ、ぼ、ぼくは……」


「ぼくは、彩希さき先輩が好き!ってか。おいキリト、ライバルだな」


 桃子はニヤニヤしながら、2枚目のクッキーに手を出した。


 キリトは、人差し指で眼鏡をなおすと、珈琲をひと口すすった。


「おーい!皆、大変じゃぁん!」


 短髪でニキビ面の天音琉空あまねりく(2年B組)は、学生の波をかき分け、皆の元へ飛んで来た。


「ビッグニュースじゃん!夕べ向ケ丘公園むかいがおかこうえん白薔薇学園しろばらがくえんの女子生徒が惨殺体で発見されたらしい!確か二年生で城田加奈子しろたかなこって名前だったじゃん」


 琉空は息を切らして話した。


「り、琉空君は……ほ、本当賑やかだね……」


 継治が苦笑いでパソコンを閉じた。


「本当か?!こんな小さくて平和な町で物騒な事件だね……」


 キリトは驚いた様子で小説にしおりを挟むと、テーブルの上に置いた。


「し、し、城田加奈子しろたかなこって……ボ、ボク同じ中学校だったよ。は、は、話したことはないけど……」


「胸を何度も刺されてグチャグチャだったらしいぜ」


 琉空は目をキラキラさせ、興奮気味に話した。


「うわ、エグッ……てか、なんでワクワクしてんだよ!お前不謹慎過ぎ、まじで」


 桃子は琉空の頭を叩いた。


「痛っ……ところで菜々花ななかはまだ来てないのか?」


「いや、琉空……お前同じクラスだろ」


 一同呆れる……。


菜々花ボクならここに居るよぉ……」


「ヒィィィ!!」


 一同驚き、キリトの珈琲は白いテーブルの上に零れた。


 ボクは、キリトの後ろでボーッと立っていた。

「菜々花、いつ来たんだ?」


「キリちゃんが小説読み始めた時……」


「え?……全然気づかなかった。てか、20分くらい前なのだが……」


 キリトは苦笑いを浮かべ、人差し指で眼鏡をなおした。


「てか、気配を消せるとか妖怪かよっ……トイレの花子さんじゃん……」


「それ、見た目な」


 いつもの琉空と桃子の漫才節に、皆笑った。


「ボクはオカッパ頭じゃないもん!ショートボブヘアだもん!」


 ボクは、顔を真っ赤にして頬を膨らませた。


「よしよしボクっ、冗談だよ」


 桃子はボクに優しくハグをした。

 ボクは、席に座ると静かに口を開いた。



「あのさ……実は……ボク……その殺人現場にいたんだ……ちょっとトイレに寄っててさ……」


「え?……冗談、だろ?」


 楽しい雰囲気は一変した。ボクが嘘をつかない事を皆分かっているからだ。


 生ぬるい風が、オープンテラスを吹き抜けた。



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